おおかみかくし

□犠牲者
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眠は苦戦していた。
自分の扱う大鎌は、代々櫛名田家に伝わるものだ。
カミオトシではずっとこの大鎌を使用している。
大きく目立つ刃。闇の中で光るそれは、とても切れ味がよさそうで捕らえられたらひとたまりもなさそうだ───と、大抵の者は思い、恐怖する。
しかし実際はそれほど恐怖する武器でもない。

この大鎌。確かに捕らえてしまえば一瞬だろう。
しかし、刃はカーブを描いており、とても重い。よって非常に扱いにくい。
捕らえれば一瞬でも、捕らえるまでが難しい───そういうものだ。


いつもは狼面衆もいる。
そして、追われるものというのは大抵自ら行き止まりまで逃げる。
数人で追い詰め、大鎌を振れば一瞬でいつもは終わる。
しかし今回はそうはいかない。
まず、戦力は眠一人だ。
それに加え五十鈴は普段から身体能力が高い。暴走している今はその倍位だろう。

そして、摘花五十鈴は───眠にとっては、個人的な理由で戦いにくい相手だった。




「九澄くん逃げて!!」

眠は五十鈴に向かって勢いよく大鎌を振りかざす───が、あっさりと短刀により受け止められた。

「くっ・・・(もう一本短刀を・・・・・・)」

何とか振り下ろそうと、大鎌を持つ手に力をこめる。
だが、短刀は音を少したてるばかりでびくともしない。
その時、五十鈴が口を開いた。


「眠ちゃんはお兄ぃを殺した」


眠の力が一瞬緩む。
その一瞬を五十鈴は見逃さなかった。

「人殺しだよッ!!」

「・・・・・・ッ!!」

ドッと凄まじい音を立て、眠は外灯に叩きつけられる。
背中と腕に、大きな衝撃が襲った。

「く・・・・・・」

“眠ちゃんはお兄ぃを殺した”
五十鈴の一言に眠は激しく動揺した。
五十鈴の兄を、摘花一誠を殺したのは眠ではない。双子の姉である眠梨のほうだ。
しかし、そんな言い訳は通用しない。
眠梨がカミオトシをしなければ眠が一誠を手にかけることになっていたのだ。

「(私の代わりに・・・お姉様が辛い役をしてくれた)」

本来カミオトシは、長男・長女が受け継ぐものである。
眠梨と眠は双子だが、長女は眠梨ということになる。
すなわち、役目を受け継ぐべきは眠梨なのだ。
しかし眠梨は身体が弱い。神人である為、神堕人の身体が弱い人間よりは丈夫だ。
カミオトシもまわりが協力すれば、眠梨が出来ないこともない。

だが、重三はカミオトシの儀を眠に受け継がせた。
そして、眠梨を少々厳重過ぎるほどに閉じ込めた。
学校は週の内、決められた日数だけ。
外出も相手、行く場所、目的、すべて重三に告げて許しをもらわなくてはならない。

問われると、身体が弱いからと重三は表向きの理由を告げる。
しかし眠は知っていた。
姉が自由になれない理由。姉の秘密を────。
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