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□宝石擬人化
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【秋の宴】



 色鮮やかな沢山の紅葉、もとい落ち葉たち。家庭ゴミの袋2つ分にもなったそれは、子供たちの宝探しゲームに使われたものだ。実姉夫婦のお土産を、探すゲームに。
 「俺ァ、何やってんだろうな」零れた溜め息は誰の耳に届いたのだろうか。水晶一家の居間のソファに深く腰掛け、隣のキッチンで団欒する三人を見る。未だ新婚さながらにイチャイチャする実姉、ガーデンクォーツ。それに相槌をうちながらお土産のスペアリブ・ガーリック風味を食む旧友ルチルクォーツ。そして、その二人の長男シトリンは海老のクリーム煮を作っている最中だ。功労者には何もない彼らにもう一度溜め息をついて、スモーキークォーツは立ち上がった。

「片付け終わったし、俺ァそろそろ帰るぞ」
「あら、ありがとう。ごくろうさま」
「助かったよスモーキー。数日はこっちにいるけどまたすぐいなくなるから、家の子たちを頼むね」
「おじさん、何か持ってく?」

 引き止めるでもなく三者三様に見送る彼らに、それぞれ返事を返して玄関を閉めた。今の季節、日中は残暑が厳しいとはいえ夜になれば風は冷たい。白くなった息に目を細め、煙草を一本取り出した。久しぶりの一家団欒に、部外者がいつまでも居座るのはよくねぇよな、と一人ごちてスモーキークォーツは足を進めた。

「おっさん、おでん適当に見繕ってくれ。あと日本酒」

 暗くなってからの公園は大人の為の場所だ。小さなおでん屋台がぽつりと佇んでいる。そこの暖簾をくぐり、いつものを注文する。決して愛想のいい店主ではないが、おでんの味は逸品だ。今日は珍しく他の客がおらず、静かに飲むには調度いい。渡された杯を傾け、大根に箸を入れる。柔らかく中まで出汁がしみている。
 店主との会話もないまま、暫らくちまちま飲んだ。牛すじやわらけー、こんにゃく熱ーと楽しんでいるといい感じに体も温まった。そろそろ行こうかと財布を取り出そうとした、瞬間。両隣に人が座った。真ん中に座っていたから、抜けだそうにも出られない。仕方なくもう一度腰を下ろす。座ったばかりの客人を立たせるのは忍びない。

「おじさん、おでん二人分。あ、いや三人分お願いね」
「あと熱燗もー」
「……は?」

 入ってきたのは先程まで家飲みしていたはずの、見知った夫婦で。両脇に座った二人は、当たり前のように自分の前におでん皿を置いた。さらに当たり前のようにお猪口を3つ並べて酒を注いだ。スモーキークォーツの困惑は増すばかりだった。

「なぁにハトマメな顔してるのよ!」
「鳩豆?」
「別に僕たちがここにいたって、何もおかしなことはないだろう?」
「さっきまで家で飲んでただろ」
「二次会よ、二次会!」

 スモーキークォーツの手を取り、かんぱーい! と音頭をとるガーデンクォーツの顔を見る。既に酔っているらしい。反対側のルチルクォーツを見れば涼しい顔ではんぺんを食べていた。

「それにしてもアンタ。一人で屋台とか、サミシーわね」
「仕方ないよ、ママさん。スモーキーは、僕たちみたいに運命の相手に出会えてないんだから」
「もう、パパさんったら詩的なんだから! 惚れ直しちゃうわっ」
「………」

 見た目に反してルチルクォーツも酔っているらしい。普段は言わないだろう歯の浮く台詞を、ちくわぶ片手に宣う彼に、スモーキークォーツは溜め息がこぼれる。サミシー人生は余計だとか、運命の相手はその内出てくるだろとか。言い返したいところではあるのだが。

「そんなサミシーけむりんには、私たちが付き合ってあげるわよ」
「お土産は自宅に届くよう宅配に頼んだから」

 いつまでも、くだらない話ができる姉と親友がいる。可愛くも憎くもある甥たちがいる。サミシくもなければ、運命の相手とやらも暫くはいらないと思える人生だ。だから、

「その愛情を子供たちにも向けてやれ。寂しがってんぞ」

 たまにこうして、酒を酌み交わしたいものだ。
 口に運んだ卵は、まだまだ熱かった。


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13.01.08
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