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□宝石擬人化
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 沸かしたてのお風呂にパパさんを放り込んだあとで、シトリンは新聞紙を広げ、そのうえに落ち葉の山を空けた。
 桜の落ち葉は赤を通り越して、茶色に見えるものも多かったが、いかんせん量も多かった。その気になればヤキイモが焼けるほどに積もった紅葉を見下ろして、末の弟が絶望的な声を出した。「ねえ、兄ちゃん。この中に本当にカエデなんて入ってるの?」

 用済みになったビニール袋を、ゴミ箱に突っ込んだシトリンは、あいまいに頷いた。「パパさんが言うには、そのはずなんだけど……」
 赤茶色の山の中には、唐紅のカエデの葉っぱは一見、見当たらない。けれども無い筈はないのだ。企画発案はルチルクォーツでも、ものを集めたのはスモーキークォーツなのだからして。生来生真面目なおじさんが、半ば無理矢理押し付けられた命令であっても蔑ろにする道理はない。「お、あった」
「―――って、ちい兄ちゃん、はやっ!?」
「あいかわらず空気読まないよねー、シスイ兄」

 真っ先に、次兄のアメシストが山の中から二枚、引き抜いた。
 赤ちゃんの手形のような、鮮やかな真紅色。「二枚見つけたら、お土産もらえるんだよな?」
 得意満面の年の近い方の弟に、シトリンは思わず、呆れまなこを注ぐ。「お前には弟妹に対する遠慮というものがないのかな、シスイ?」
「ローザ。探すの手伝ってやろうか?」
「う、うん。ありがとう、シスイ兄さん」
「僕はああああああ!?」
「あ、あったー」
「アクアちゃんまでっ!?」
 続けざま、隣の家の女の子が小さな指に葉っぱを掲げた。軸を摘まれてくるくるっと回転したそれが、赤い残像を残すのを見てクォーツは慌てて、落ち葉の山に両腕を突っ込む。「うわわわわっ」

 何故なら、お土産は全員分、ではないのだ。
 パパさんのうっかり――と本人は言い張っていたけども、実のところは定かではない――のせいで、お土産は誰か一人には、行きわたらない計算になっていた。残り五枚しかないカエデを探して、末弟は目を皿にしていた。妹もひとつひとつ葉の色をたしかめる、地道な作業を続けている。

「もうひとつあったー!」
「アクアちゃん、早いね」
「えへへー。当然なんだもんっ」
 素直に嬉しそうな隣の家の女の子に微笑んで、シトリンもようやく、落ち葉に手を掛けた。
 枯れ葉色の葉っぱたちはおおよそ乾燥肌で、弟妹たちが乱雑に寄せたり退けたりしたせいで、欠けているものも多かった。「あ、あった!」
 ローズクォーツが明るい声を出す。「な、なんで僕だけ……!?」
 クォーツはいよいよ泣き出しそうだ。「おれもまだだよ、クォーツ」
「クォーツってばまだ見つけられないのー?」二枚のカエデを見せ付けながら、アクアオーラは容赦がない。「こんなの簡単なのに!」
「……うっ、うううっ……」
「べそかいてると、ますます見つけられなくなるのよー?」

 泣きじゃくりながらも必死でがさごそやる末弟は、見ていて微笑ましい。シトリンは真面目にはカエデを探さずに、弟妹の様子を――兄心というよりはむしろ――親心に近い心境で見守っていた。
 アメシストが、目ざとく見つけた一枚を、溺愛している妹にわたしている。

「ちい兄ちゃんのシスコン……」
「ほらほら、クォーツ。早く見つけないと、シトリン兄にとられちゃうよー」
「うううっ」

 アクアオーラの野次が、実は全くカエデを探すつもりのない、シトリンの胸にもさりげなく刺さる。内心「参ったなあ」と一人でごちて、シトリンはさっきよりは本気で、カエデを探しはじめた。もし見つけたら、こっそり末弟の方に寄せたげればいいだろう。


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