Slam Dunk
□その距離、
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今日はいつもより早く目が覚めたから、珍しく早い時間に学校に行ってみようと思い立ってしまった。
………や、やっぱり慣れないことはするものじゃない…。
「………………」
「あ、おはよう***」
外に出たら同時に開いた隣の家のドア。
そこから顔を覗かせたのは、やはり幼馴染であって。
ひとテンポ遅れてから「おはよ」と小さく返した。
そのまま早足にその場を離れようと歩き始めると、後ろから慌てて追いかけてくる足音が聞こえる。
「珍しいな、***がこんな時間に家出るなんて」
「ま、まぁ……目が早く覚めちゃって」
「へーじゃあ久しぶりに一緒に学校行こうぜ」
笑顔で言われたらイヤだなんて言えなくて。
私は引きつった笑顔を浮かべてひとつ頷いた。
隣を歩く幼馴染のトレードマークともいえるツンツンの頭は、一体どれほどの時間をかけているのかと不思議に思ってしまう。
でも。
………また、かっこよくなった。
背もきっとまた少し伸びた。
中学校にあがってから、小学校のときほどしゃべらなくなった。
そして高校に上がるとますます。
けど、たまに見かける仙道の姿を見てそう思ってた。
バスケで頭がぬきんでるようになってから、仙道の周りは女の子で固められ始めて。
あの子と付き合ってるんだって、と誰かに聞くたび私の胸は耳を塞ぎたくなるような音を立てて潰れていった。
だから、私のほうから距離をとった。
どんどん仙道が知らない人になっていくようで、怖かったから。
「せ、仙道はいつもこんなに早いの?」
「え?」
ずっと沈黙だった空気に耐え切れず、私は思い切って尋ねた。
すると仙道が驚いたように目を丸めて私を見下ろす。
その表情が昔と変わっていなくて、可愛らしい。
「い、いや…だって、小学校のときはいつも……」
私が、起こしに行ってたから。
そう言えずに、語尾を濁すと仙道が口を開いた。
「まぁ今でも寝坊はしてるよ。監督には怒鳴られるけどな」
「そ、そっか」
ど、どうしよう。
何年もずっと離れてたから、いい話題が思いつかない。
「***はさ、部活入らなかったんだな」
「えっ、あ……うん、入りたいものが見つからなくて」
中学までは男子バスケ部のマネージャーをしていた。
でも仙道から距離を取ろうと決めたとき、自然とマネージャーの選択肢は消えた。
「そっか」
「う、うん」
私たち、昔はどんな話してたんだっけ。
今までの接点ゼロの時間とその間に出来てしまった私たちの間の距離を噛み締めながら、それから私たちは無言で歩いた。