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「私…異世界から来た、って言ったじゃないですか…」
私達はサッチさんの部屋に移動して話を始めた。
私は勧められて近くの椅子に腰掛け、サッチさんはベッドの上に腰を降ろす。
「…偶然とかじゃないんです、こっちに来たの。」
「え?」
「ずっと、こっちに来たい、…マルコさんに会いたい、って思ってたんです。家族とも…ちゃんとお別れを言ってきたんです。」
お母さんとの電話を思い出して鼻の奥がツーンと痛む。
お母さんもお父さんも…元気にしてるだろうか。
こんな親不孝な娘に呆れてるだろうか。
「私、向こうの世界を捨てて、こっちの世界に来る事を選んだんです。」
選択とは一つを捨て、もう一つを選ぶこと。
生きていれば何度も選択は繰り返される。
それは人生を左右するような大きなものから些細なものまであるだろう。
その中で、最も大切な選択を私はしたのだ。
私は自分の世界と家族よりも、マルコさんを選んだ。
「…なのに、こっちの世界に私が知ってるマルコさんがいないなら……いる意味なんてないっ……!!!」
視界が揺れる。
ああ、駄目だ。
また泣いてしまう。私の涙腺は欠陥品なのかもしれない。
私は唇を精一杯噛み締めた。
「…じゃあ、帰りたい?」
サッチさんが優しい声でそう聞いてくる。
「マルコが真理ちゃんのことを忘れちゃって、真理ちゃんのことが好きでなくなったら……帰りたい?」
サッチさんがベッドから立ち上がり、私の方に別の椅子を近づけて座った。
「もし、マルコが記憶を亡くしてしまう時が来る事を知ってたら、こっちに来ることを選ばなかった…?」
私はその質問にだけは首を振った。
きっと、私がその時に戻れたとしても、今と同じ選択をしていたから。
何があっても、何を知っていたとしても、私はこちらの世界に来る事を選んだだろう。
サッチさんと会えた。エースとも、ダイアナとも、親父さんとも船員達とも。
「…なら、いる意味がないなんて言わないでくれよ。寂しくなるじゃんか…俺たち、家族だろ?」
サッチさんが困ったように眉をハの字に曲げ、苦笑する。
「…ごめんなさい。」
「真理ちゃんが謝る事ねェよ。悪ィのは全部あの馬鹿マルコなんだからさ。」
サッチさんが豪快に笑い飛ばす。
私も涙は引き、笑が零れてきた。
そうだ、何をぐずぐずしていたんだ私は。
マルコさんに倍返しする、そう決めたんだから。
何を見たかなんて知らない。
ダイアナは友達と思いたいし、マルコさんだって信じたい。
私はパチッと両頬を叩いて気合を入れた。