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□花弁の恋
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「は〜。
書類仕事って本当に面倒くさいな〜。」

ポケットに手を入れ
独り言を呟きながら中庭をぶらぶらと歩く一人の軍人
その紅の瞳はサングラスで覆い隠されている


特に目的もないようで
気ままに歩いているようだ


いい天気だな、と伸びをして
近くにあった木の根元に座り込んだ


「ふぁ、ねむ…。
暖かいし寝ちゃおうかな。」


木にもたれ掛かり
どうやら眠りにつくつもりのようだ

眼を閉じようとしたら何かが視界に入ったようで少し腰を浮かし
手を伸ばした


「あ、こんなところにお花が咲いてる!」


そこにあったのは
白い花弁の小さな花だった


「可愛いwww
もう春だね〜。」

紅の瞳の男
いや、ヒュウガは花弁を指先で
触る
そしてなにやら思いついたようで
「うん。やっぱり花と言ったら花占いだよね!」

というと花を手折り、手に持つと「花占いと言ったらもちろん恋占いだよね♪」と楽しげに白い花弁を一枚ずつ千切り取り
好き、嫌いと数え始めた

ゆっくりと春風の吹き抜ける中
花占いをする身体つきのいい軍人というのはなかなかにシュールなものだが
当人は微塵も気にしていない様子だ

静かな中庭にはヒュウガの声だけが響いていた
























「好き…、嫌い…、すk…」

「──ヒュウガ。」


先ほどまではしなかった
靴音と共にヒュウガの声を遮り聞こえたのは
低くよく通るアルトソプラノの女性の声だった

呼び掛けられたヒュウガは
嬉しそうに破顔しながらアヤナミの顔を見て名を呼んだ

アヤナミはヒュウガのそばまで来ると花弁の欠けた白い花を視界に留め訝しげに眉を潜めた


「あ、これ?
さっき見つけたから花占いしてたんだ。」


もちろんアヤたんとのことだよ
と、てらいもなく言ってのけた


「花占い?」

「あれ?アヤたん知らないの」


問いかけに眼を細め
それくらい知っている。馬鹿にしているのか、と不機嫌に返す

ヒュウガはまた花弁を一枚指で摘まむ

それを見たアヤナミはため息を
こぼすと隣に肩を並べるように静かに腰をおろし真剣な様子のヒュウガを見つめる


「好き…嫌い…」


二人だけの中庭に
またヒュウガの声が囁くように聞こえる

互いには言葉を交わさないが
穏やかなときが流れている

「…クスリ。」

思わずといったように
アヤナミの口から笑みがこぼれた

それを認めたヒュウガは
むくれたように口を尖らせ文句を言う


「ちょっとアヤたん!
なに笑ってんのさ!」

「ふふ…。
お前がたかだか花占いごときで
そこまで真剣になっているのが滑稽でな。」

「酷い。オレ
アヤたんのことならいつだって真剣なのに。」


顔を手で覆い泣き真似をする

アヤナミの呆れた眼差しを受け
そろそろやめておこうと顔を上げたところに突然強い風が吹き抜けた


「あ…。」


先ほどまでヒュウガが持っていた花は今の風によって空へ舞い上げられてしまった

一瞬手を伸ばしかけたものの
もはや届かぬと諦め
空を飛んでいく花を眺めやり
あと一枚だったのに、と残念そうにもらした


「別によかろう。あんなもの。」

同じように空を眺めやっていたアヤナミは別段未練もなさそうに呟く


「それに、占いなど必要ない。」

私を好きだなどとと言う酔狂な男はお前だけだ。
したがって私はこの先もずっとお前のものだ。と、反対側を向きポソっと吐き捨てる

その言葉を聞きしばらく間抜け面をさらしたかと思うとギュウっと効果音が聞こえそうなくらいアヤナミに抱きついた


「もう。アヤたん可愛すぎるよ。」


抱きつかれたアヤナミはフンと鼻を鳴らし満更でもなさそうに大人しくヒュウガの腕の中に収まっていた


幸せそうな二人を
また春風が優しく通りすぎていく

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