LIAR
□sweet
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「…名無しさん…」
車を降りてから個室の入口までの距離が、どれほど遠かったことか。
謝罪の言葉を思い付く限り頭に浮かべても、この気持ちは伝えきれない。
俺はもどかしさと不甲斐なさで一杯なまま、案内された部屋のドアを開けた。
君の華奢なうなじに、鼓動が乱れた。
緩くまとめた髪と、白い首筋。
名無しさんは立ったままで、部屋のガラス越しの夜景を眺めていた。
光沢のあるドレスに美しい肌を引き立てられた背中には、近寄りがたい雰囲気すら感じる。
俺は静かにドアを閉めて、名無しさんの方へ歩いた。
絨毯が足音を吸い込んで、まだ俺の到着を君に知らせずにいてくれる。
ここに着くまでに、たくさん考えた
その全部が吹っ飛んだ俺は
ガラスに触れる名無しさんの白い手を包むように、自分の手を重ねた。
「会いたかった、名無しさん」