LIAR
□贅沢な悩み
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出来立てのコーヒーが入ったマグカップを私の机に置こうとしていた先生は、その手を寸前で止めて言った。
「ごめんね、聞こえちゃった」
はい、と静かにマグカップを置いて、先生は微笑む。
「…すいません、これは私の仕事なのに」
酸味の混じった、いい香り。
本当は先生の方がコーヒーを入れるのもずっと上手い。
砂糖やミルクを入れるなんてもったいないくらい
「美味しいです」
私は一口味わってから言った。
「ありがとう」
先生も椅子の背にゆったりと頭を乗せて、つかの間のコーヒータイムを取っている。
「あの、先生?」
「うん?」
「デート、じゃないですから」
「あら、そうなの?」
窓の外をぼんやりと眺めていた先生が、私に向き直る。
「でも、誘われてるんでしょう?」