LIAR
□deepen
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そこは、ひっそりとしていた。
これほど熱気が渦を巻いている空間に、ぽつりと存在する孤島。
壁に備え付けられた棚には、リキュールのボトルがずらりと並び、交差する照明に照らされている。
手前の小さなカウンターには、暗闇に浮かぶキャンドルほどの明かりがあるだけ。
スリルや刺激を楽しみに来ている客なら、こんな日陰のスペースになど近づくはずもない。
俺は、まっすぐに歩いた。
闇と同化したブラックのスーツが、君の身体を包んでいる。
逆光がそのラインをなぞる。
俺は、整理のつかない言葉達に急かされて歩いた。
最初は何て言う?
その次は?
そのまた次は?
頭の中がうるさくて、大音量の音楽すらも消し去ってしまう。
今、俺の聞きたい音は
アルバムの新譜でも
ダンサブルなナンバーでもない
「…ユノ?」
俺の名前を呼ぶ
名無しさんの声だけ。