envy…
□呪文
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スマートな従業員は言葉少なく私達を奥へと誘導する。
ぴかぴかのウイングチップ
店を辞めても簡単には治らない。
私は染み付いた自分の習慣がおかしかった。
「ごゆっくり、どうぞ」
「ありがとうございます」
私達のコートをハンガーに掛けると、従業員はオーダーも取らずに出て行った。
彼女は重いカーテンを全開にして私を手招きする。
「うわ、キレイ…」
「名無しさんにも見せたかったの。私の大好きな夜景」
深まる夜は魅力的だった。
もう、私はこの世界を彩る蝶ではない。
それでも
愛おしくて
愛おしくて
…愛おしかった。
「今までなら客にメールしまくる時間なのにな…」
私は下唇を噛んだ。
「私も…ユノに出会うまでは大変だった」
ドアが開くと、従業員は冷えたワインと美しい料理を次々にテーブルに並べた。
私達はその誘惑には勝てずに、席に着いた。