envy…

□懐かしい抱擁
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「女は、強いよなあ」


ちらりと見える時計は、ダブルネームのアンティークだった。

お金を出せば買えるような物じゃない。


「泣けない、は嘘です」


「うん?」


「泣きたくないの」


「…うん」


「だから、シラフでは観られなくて」


「恐いよね」


「………」


「…俺さ、好きなんだよね。ニコラス・ケイジ」


「私も大好きです」


「リービング・ラスベガス?」


「もちろん!」


「俺もウチのカミさんが勧めてくれてさ、もうたまんないよな?」


「素敵な奥様です」


「俺もそう思ってます」


「…映画の話、もっとしてもいいですか?…安いボトルで」


「カミさんに叱られるよ。『No.1にはシャンパンかワインよ』って言われてるからなあ」


トレッキングシューズはソファの位置を少しずらして、私と距離を取った。


「同じワイン、持ってきて」


私はボーイに注文した。
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