僕の上に空が続く

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ホームルームが始まり、教室に居るクラスメイトの数が少ない事に気づく。
朝からカフカ目当てでいろいろな人が教室の中に居たから気付かなかった。
ざっと見ても座られるべき椅子に座る人がいない。

「みなさん、落ち着いて聞いてくださいね」

ロールズ先生がいつもにまして静かに声を張る。
その目には戸惑いと決心の色が入り混じっていた。
なかなか口を開こうとしない先生にエミ―が続きを促す。

「どうかなさったんですか?」
「ええ、皆さんに伝えなければならない事があります」

先生がようやく続きを話し始めた。

「皆さんは最近頻繁に魂塊(エルノム)がこちら側へ来ているニュースを見ましたか?」

ざわざわと教室で肯定の声が上がる。
俺も朝のニュースを思い出していた。

「この学校の中でも多くの生徒がバイトとして魂塊(エルノム)討伐を行っている事も知っていますね?」

事態を察した何人かの生徒の顔が曇る。
俺もまさかと先生の顔を見上げた。

「昨日未明、このクラスの生徒が重傷を負い入院しました」

エドリック、ファンストン、クラムス、ケイト、バーバキンと先生が一人ずつ名前を呼んでいく。
この5人は特に仲が良く、魂塊(エルノム)討伐のバイトを一緒にしていた。
5人とも11〜20階級ではあるが十分な実力と連携プレイだったはずだ。
魂塊(エルノム)を相手にしてこの5人が重傷を負うと言う場面が想像できない。

頭がまだついていかない俺に、先生は容赦なく言葉を突き付ける。

「エドリック、ファンストン、クラムスの三人は植物状態で生と死の間をさまよっています。ケイトは両足を失い、バーバキンは右腕と視力を無くしましたが命に別条はないそうです。ですが毎日のように何かに脅え叫び続け、聖心麻痺と診断されています」
「そ、そんな!!そんなはずないわ!!!!」

クラスメイトの一人クラムスと付き合っていた女子が床に泣き崩れる。
他の誰も先生の言葉をまともに受け取る事が出来ない。
昨日まで話していた5人の顔が思い出され、どうしても本当の話だとは思えない。
いや、思いたくない。
そんな中エミ―只一人が冷静に先生と向き合っていた。

「先生、対魂塊(エルノム)で人間が植物状態にまでなってしまう事はありえません!!!」

言われてみれば確かにそうだ。
そんな話はいままで聞いたこともない。
心に余裕の残っていた何人かがエミ―に加勢する。

「ええ、私も初めて聞きました。ですが、数で押されれば、あり得ない事ではないでしょう」

例えば、と先生は続ける。

「最近の魂塊(エルノム)増加により多いところで50体もの魂塊(エルノム)が集団で発見されています。今回も現場の魂塊(エルノム)の足跡から、それと同等、もしくはそれ以上の痕跡が発見されています。そんな場所に5人のみで討伐を行ったとすれば」

先生の声にすかさずエミ―が反論する。

「ですがクワルツォの原則として魂塊(エルノム)討伐には必ず上段階級が指揮を執る事とあります。50体以上の魂塊(エルノム)に5人とはいえ、バイトのみで行かせるなんて事ありえませんよね?」
「彼らは指揮を無視して5人のみで討伐を試みたそうです」
「そんな!!嘘です。そんな無謀な事するような人たちじゃありません!!先生だって知っているじゃないですか」

エミ―の一言に、クラスからも嗚咽混じりの声や混乱しきった声が発せられる。
濁流の様な響きに飲み込まれないよう意識を先生へと集中させる。
先生は大分困ったような顔をしていた。

「お静かに。私も信じたいわけではないのです。ですがこの事は事実です。彼らが指揮を待たずに先陣を切った事」

先生は目を閉じて一呼吸置く。
俺をはじめとしたクラス中の視線が先生へと向けられる。

「理由は分かりません」

教室の中をゆっくりと歩きながら、先生が独り言のように話を始めた。

「彼らは素晴らしい私の教え子です。近距離が得意だったファンストンとバーバキン、捕縛専門職のクラムス。護衛援護射撃のエドリック、そしてフィールド補正のケイト。これだけバランスのよいチームはなかなかいません」

先生が床に崩れたままの女子生徒を抱え込み椅子へと座らせ優しく抱く。

「良いですか?真実は一つだけしかありません。それがどんなことであろうと、受け止めなくてはいけません」

先生は優しく笑う。

「5人が一刻も早くこの教室に帰ってこれるよう、皆さん勉強に励んで下さい。私たちが出来る事はそれだけです」

今回の事もあってか、午前中は魂塊(エルノム)に対しての授業を臨時で行う事になった。
未だに帰ってこないカフカと、珍しく授業に出席していないエミー。
そしてクラス中が授業に身が入らないかのようにうつろな目をしていた。

朝の雑踏が嘘のように静まり返った教室。
そして代わりに俺の心の中には溢れんばかりの感情がこみあげた。
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