僕の上に空が続く

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校門に差し掛かり、人の密度が一気に濃くなる。
息苦しいし、見苦しい。
さまざまな色の髪が入り乱れていて、なんだか汚れたキャンバスのようだった。
この学校はアムール系が多いと聞いたが、確かにこれは凄い。
俺の足は呆気にとられて止まっていた。

「そうか、カフカは朝の指導は初めてだっけか」
「朝の指導…」
「そう、装飾品とか違法パアツとか色々な」

よく見ると校門に立つ先生らしき人が、生徒の制服等をチェックしている。
無駄な時間だと思う人はこの中に沢山いるだろうに、誰一人その事を口にしない。
校則とは理不尽な束縛だ。

「見ない顔だな」

先生らしき男が俺を見てそう言う。
当たり前だろ、俺はここに来て4日目だ。
そう言う代わりに冷たい視線を送る。
男は小さく首を二度縦に振ると、俺にパアツを見せろと言ってきた。
俺は胸ポケットからカッターを取りだす。

俺のパアツ死羽(デスファー)はカッターを改造して造られた殺傷型軽量系パアツだ。
10センチほどの漆黒のフォルムに輝く赤色のクリスタルが1つ。
カッターの側面に付けられた三つ網状の装飾に指を掛け、見やすいように目の前に掲げてやった。

男はそのクリスタルの輝きを見ると、また二度首を縦に振り目を細めた。

「お前がカフカ・ミョオン…か」
「俺も有名なんですね」

俺は男から目を離さずにさっと胸ポケットに死羽(デスファー)を滑り込ませる。
隣に居るコニャックが目を輝かせて俺を見ているが、言いたい事は大体分かるので無視して校門を潜った。

男はまた自分の仕事を思い出したかのように、生徒に声を掛けては注意をしていた。

「お前って上段階級だったのか!?」

必要以上に目を輝かせたコニャックが俺の行く手を阻む。
馬鹿でかい声のせいで校門にいた生徒の注目を一気に受ける。
これほどまでにこいつの事をうざいと思った事はあっただろうか。

「だったら何」
「俺、尊敬する」

一際は低い声の俺と、一際高い声のコニャック。
あの時こいつを無視して登校していればこんなことにはならなかった。
やはり俺はこういう人が多いところは嫌いだ。
そしてこいつに隙を見せた俺自身がもっと嫌いだ。

「どけよ」
「上段階級って高校生で取れるものなのか!?」
「取れるんだろ、持ってるんだから」

声を荒げたい衝動をやっと押し込め、俺は鋭い眼光と共に言い放つ。
彼はまだ何か言いたげだったが俺の動向をさっしたのか、素直についていくことにしたようだ。

高校生で上段階級という話に前例が無い訳ではないだろう。
ただその中の一人がここにいれば騒ぐきっかけになってもおかしくはない。
それでも大衆の目が玄関へ向かう俺たちに集まっている事が気に食わない。
気に食わないついでに近くで騒ぐ集団に眼を飛ばす。
集団の一人がそれに気づき、慌てるように他の奴らとその場を去る。

胸ポケットにある死羽(デスファー)にちらりと目をやると柄のクリスタルが一瞬光る。
だがコニャックが騒ぐほどこの輝きが凄いものだと、俺にはまったくもって分からなかった。

1から始まる50階級のうち上段階級と言われるのは、赤クリスタルの装備を許された31階級より上のものだ。
魂塊(エリアム)討伐の専門職につくものにとっての最低条件でもある。
死羽(デスファー)が放つクリスタルの光は1つのみ、だがその輝きには確かに意味が施される。

玄関に着くとコニャックがばつが悪そうに俺に詫びる。
さすがに自分のせいだという自覚はあるらしい。
俺は無言で自身の靴箱から上履きを取りだす。

「階級ねえ」

つぶやきは靴箱の扉を思いっきり閉めた音でかき消された。
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