僕の上に空が続く

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俺が通う事になったクワルツォ中立高等学校は、F区の東に位置するクワルツォで1,2を争う進学校だ。
頭のいい奴、才能のある奴、親の七光何て奴もいる。
俺は隣で歩くコニャックを見る。
どう考えても頭がいい様には見えないが、何か秀でた才能でもあるのだろうか。
大して興味もないので直ぐに思考を止めた。
時間がもったいない。

俺は腕時計に目をやり、時間を確認する。

クワルツォの地域はおおよそ時計回りにA区からH区まで存在する。
文字盤の12時の方向に住宅地A区が始まり、9時の方向が高層ビルが立ち並ぶB区と広い大地に家が転々と立つC区の間。
6時の方向に山脈が連なるD区。
3時の方向には赤い海、紅海が波をうつ。
そして2時の方向からリゾート地区のE区が始まる。
そこからF区G区と渦巻状にクワルツォの中心部分へと地域が分けらていく。
丁度中心にあたるのがH区だ。

クワルツォ自体が一生命体であり、今この時も生きている。
少しずつ地形が動いている、空の雲が流れるように。
毎週金曜日になるとC区とE区の地形が一気にせり上がり、その反動でD区が窪地になる。
紅海の海水がD区を綺麗に飲み込み、クワルツォの南半分がほぼ浸水する。
そのためかD区に住む人はここ数千年いないのだと言う。

時計の針は8時10分を刻んだ。

一人で通う時より時間がかかっている。
もう少し早く歩かないと間に合わないと踏む。

「おい、もう少し急ぐぞ」

だがさっきまで隣に居たはずのコニャックの姿が見当たらない。
がるるるるる、低いうなり声が背後から聞こえてきた。
俺は嫌な予感がして振り向く。
見るからに小柄な犬にコニャックが威嚇されていた。

「カフカ!違うって、これはな愛情表現ってやつだ!うおっ」

そう言うコニャックに小型犬が牙を光らせた。
飼い犬が見当たらないが、首輪をしているところを見ると野良犬ではないらしい。
これはこれで面白いが、そうしている間に時間は過ぎる。
遅刻なんて俺は別に平気だが、見るからにこいつはそう言うのがダメそうなタイプだ。
無遅刻無欠席の皆勤賞をもらって喜ぶタイプ。

静かに小型犬とコニャックの間に歩む。俺の目は小型犬の目を捉えて離さない。

胸ポケットに手を入れカッターを抜きだそうとした時、慌てて誰かが犬を抱きかかえた。
 
「すみません、うちの子が」
「あ、いいんですよ!!ぜんぜん!!」

飼い主か。
文句の一つでも付けてやろうとした時、コニャックが横から口をはさみ俺を制する。
コニャックの腕が俺の腕をつかみグイッとひっぱると、そのまま無理やり歩かせられる。
 
「離せ、ああ言うのはちゃんと言わないと」
「いいって、いいって。ちょっかい出したの俺だし」

眉毛をハの字にしてごめんと謝るコニャックの腕を無理やり振り払う。
自分が熱くなっている事に驚いた。
今朝だけで大分新しい自分に気が付いてしまった。

こいつのせいか?
コニャックを睨みつけると、あいつが然もばつの悪そうな顔で俺を見る。

間抜けだ。

俺がこの間抜けのせいで変わるわけがない、そう自分に言い聞かせた。

学校に近づくにつれて同じ制服を着る奴らが一気に増えた気がする。
完全にビジュアルを気にして機能性が全く見られない制服の群れが、一方向に向かい列をなす。
まったく蟻の群れとさほど変わらない。

蟻は生きてゆくために砂糖に集る。
俺たちが学校に集る理由も将来の為、生きてゆくためだ。
だとしたら蟻と俺たちの違いはなんだ?
図体のでかさか?
身体の構成か?
だが少なくとも、俺たちより蟻にはロマンがある。

俺は行き交う人の背中を見て、そう感じた。

「カフカが今考えている事を当ててやろう」
「あ?」

唐突に切りだされ、変な声が喉から出た。

「今日の昼飯はなんだろう!だろ!!」
「馬鹿か」

高まった志向は一気に氷点下を切った。
あほらしい、だがそれが俺たちか。
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