Novels

□願い
6ページ/8ページ

「…俺は強くない」
自嘲気味な笑みを浮かべ、馬超は言った。それを趙統が聞き咎める。
「何で?皆強いって言ってるのに」
「腕っ節は、な。だが…強さというのは、腕っ節のことだけを言う訳じゃない」
「じゃあ、他にはどんな強さがあるの?」
言えるものなら言ってみろ、とでも言いたげに、趙広が尋ねて来た。そんな趙広の様子に馬超は微笑を浮かべる。
「さあな。俺にも答は解らん。…お前達の父君なら、答えてくれるかもな?」
そう言って、彼は趙広の頭を撫でてやった。撫でられながら、また趙広が問う。
「じゃあさ、馬超さんの御願いは?」
「俺…?」
―あぁ、また…。
馬超は人知れず溜息を吐いた。趙広を撫でていた手も止まる。
「馬超さん…?」
趙統が気遣わしげに覗き込んで来る。馬超は自分を取り繕う様に、今度は趙統の頭を撫でた。
「そうだな、俺は……お前達みたいな家族が欲しい」
「家族?」
「そう。…俺だけ、置いて行かれてな。仲間外れだ…」
馬超はまた自嘲気味な笑みを浮かべてしまった。子供にこんな情けない顔は見せたくないのだが、それでもどうしようもなかった。
「大丈夫、馬超さん!」
馬超の隣から正面へと移動し、趙統が言った。馬超は慌てて顔を少し俯ける。それには気付かず、趙統は続けて言った。
「ここじゃ仲間外れなんか無いよ!皆家族だもん!」
「皆…家族…?」
「うん!父上がいつも言ってる。『ここにいる皆は家族だから、どんな時も一緒で、助け合わなきゃいけない』って!だから馬超さんも俺達の家族!」
趙統の言葉に、趙広も笑顔で頷く。二人の笑顔が、馬超には眩しかった。
戯言だ、といつもなら一蹴し、突っ撥ねる様な彼等の言葉。しかし今は、不思議とそんな気分にはならなかった。そんな自分が可笑しく、馬超は笑う。
「そうか…皆家族か。じゃあ俺はお前達の“憧れの御兄さん”だな!」
「いや…流石に無理だよ馬超さん…」
「うん…どっちかって言うと“叔父さん”だよね…」
ただ冗談で言っただけだったのに、意外と二人の反応は冷静だった。しかも意外と辛辣なことを言われている。馬超自身がそのことに気付くまで、暫くかかった。
「お前らなぁ…」
少々落胆した様な声で言いながら、馬超は二人の肩を抱く。そして、
「失礼なこと言う奴には…仕置だ!」
にやりと笑い、馬超は二人の頭をぐしゃぐしゃと撫で始めた。力は入れていない。だから二人も、「痛い」とか「やめてよ」なんて言いながらも、笑いながらされるがままになっていた。端から見れば、彼等の姿は本当に家族の様で。

ふと、馬超の脳裏にまた昔のことが浮かぶ。だが今度は自分から振り払った。
消えない過去。残る傷。
それはきっと、一生心のどこかに巣食い続ける。それで良い。でも、今だけは。前を、向いていたいと思った。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ