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□司馬家な人々。
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「立てるか、子元…。全く、こんなに頬がこけて…」
「それは元からではありませんか、父上?」
…今はそういうツッコミは要らぬのだ、子上。空気を読め、空気を。
「とにかく今何か食事を用意させるからな!少し待て、子元」
「な…なりません…」
調理場へ向かおうとした私の裾を子元が掴む。
「い…幾ら食事を、出され、ようが……父上、が…母上に、謝る、までは…何も、食べませぬ…」
頼むからまず自身の心配をしてくれ、子元…。そして何故こんな所だけ頑固というか律義なのだ、お前は…。
…………待て。
そういえば、何故春華と子上は普通なのだ?
「子元…お前、ずっと断食をしていたのだな?断食だけだな?」
「はい…。この、一週間…水も、口に、しておりませぬ…」
「…春華と子上も…そうなんだな?」
「えぇ、勿論。そろそろ水の一杯位飲みたいものね、子上?」
「そうですね、母上」
…………嘘だ。
この二人、確実に毎日何か食べているに相違無い…。にしても…子上に比べ、何故子元はここまで身の振り方が下手なのだ……一体誰に似たのか。
「あぁ…そろそろ空腹で(子元が)死んでしまいそうだわ…。こんな惨めな死に方をするなんて……(子元が)司馬家の汚点になってしまうこと、お許し下さいね、あなた…」
えぇい、小さく「子元が」などと付け加えるな!しかも我が子を盾に、私から謝罪を得ようというのか!?あぁああ勝ち誇った顔をするな!忌々しい!在りし日の諸葛亮並みに忌々しい!!
この老いぼれに頭を下げるなど癪だが…可愛い息子の命には変えられぬ。私は覚悟を決めた。
「…す…済まなかっ…た…」
「あなた…今何かおっしゃいまして?耳が遠い老いぼれには聞き取れませんでしたわ」
こ…この老いぼれめぇええっ!かくなる上は…
「此度は申し訳ございませんでした!」
素直に土下座だ。どうだ、この謝り方…他の追随を許さぬ程に完璧であろうが!
「そう。それじゃ子元、子上、食事にするわよ」
「はい、母上」
……流された。死ぬ程の屈辱を感じて吐いた言葉を…。
「助かれば良いのは息子だけ…老いぼれなどどうでも良いわ」
ぼそりと呟くと、私の頬を包丁が掠め、背後の壁に突き刺さった。
「食事の準備…出来ていますよ、あなた」
微笑んで言う春華。
「…今行きます」


−私は後世に伝えようと思う。
自らの偉業の前に、
『妻を侮ることなかれ』
と…。



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