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□司馬家な人々。
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私は今、馬上で帰路を急いでいる。これでも一応は病に冒されし身。やはり辛いものがあるのは確かだ。だが今の私には、輿などという悠長な物に乗っておられぬ理由がある。
それと言うのも、今朝訪ねて来た春華の侍女が、春華と我が息子達が一週間前から断食をしておるなどと言ったのだ。とても信じられたことではないが……万が一ということもある。何より、私の可愛い息子達が餓えに苦しんでいるやも知れぬのだ…これが急がずにおれようか。それにしてもあの侍女…何故一週間もその状況を放っておいたのだ!?凡愚めがっ!!
徐々に見慣れた屋敷が近付いて来た。この屋敷もそろそろ改修が必要な様だな……って、今はどうでも良い!とにかく今は息子達の無事を確認せねば!!

「あら、あなた…。急にどうなさったの?」
私が屋敷へ踏み込むと、まず春華がそう声を掛けて来た。
−お前のせいだ、この老いぼれめ。
そう毒づいてやりたいのを我慢して、私はとにかく一番尋ねたいことを口にした。
「息子達は!?子元と子上はどこに居る!?」
「そんなに焦らずとも呼べばすぐに来ますわ。子元、子上、父上がお帰りよ」
そう言い、部屋の奥へ呼び掛ける春華。するとすぐに人影が現れる。
「どうなさいました、父上?」
「子上!無事だったのだなっ!!」
私は思わず子上に抱き付いてしまった。まるで十年振りにでも会った様な気分だ。
「ち…父、上…」
無事の再会を喜ぶ私の耳に、苦しげな声が届いた。何事かと見るとそこには…床をずるずると這う子元が。
「子元ーっ!?お、おま…っい、一体何があった!?」
慌てて子元を抱き起こすと、子元はまるで遺言でもするかの様な声で言った。
「父、上…は…やく母上に、謝り、ませんと…母上の…御命、が…」
「何?それはどういう…」
「言葉通りの意味ですわ」
お前には聞いておらぬわ!!いやしかし、この状態の子元に話させるのは酷というものか…ちっ、この際仕方あるまい。
「言葉通りの意味…とは、どういうことだ、春華?」
「それはね、『早く母上にお謝りになられませんと、いつまでも断食は続きます。それこそ死んでしまうまで』という意味です」
「な…何…?」
この老いぼれめ、ぬけぬけとよくもそんなことを…!!しかし今はどうでも良い。とにかく今はまず子元をどうにかせねば…。
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