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□司馬家な人々。
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「それは何とも酷い話ですね…」
「そうでしょう…?」
職務が終わり、子上と共に帰宅するとすぐ、母上が泣き付いて来た。何でも、折角父上の見舞いに行ったというに、目通りも許されなかった挙句、「老いぼれ」呼ばわりまでされたのだと言う。何を思って、父上はそんな酷いことをおっしゃったというのだろうか…?
「この屈辱…私には耐え切れないわ。何かあの人をとてつもなく後悔させる様なことがしたいのだけれど……何か無いかしら、二人共?」
「では…一度出奔でもなされてみては?」
少し困った様な顔をしながら子上は言った。弟よ…考え方が甘いぞ!それでは余計に父上が好き勝手をなさるではないか!!
「母上…断食、などいかがでしょうか?」
「断食…?」
「そうです。断食を以て母上御自らその御命を絶たれ、父上に母上の存在の大切さと偉大さを知らしめるのです!!」
ふ…母上が呆然というか愕然というか、何とも言葉では言い表せぬ表情をなされておいでだ。きっとそれ程までに、私の提案に感銘を受けておいでなのであろうな!!
「…兄上」
「どうした、子上?この兄の提案に勝る考えでもあるのか?」
「いえ、ただ……死んでは元も子もないと思うのですが」
「それだからお前は考えが足らぬというのだ、子上。母上は、『とてつもない後悔を』とおっしゃったのだぞ?母上の死をおいて他に何があるというのだ…そうでしょう、母上?」
「えっ!?え、えぇ…」
流石は母上。良く物事の道理が見えていらっしゃる。子上よ…お前はもう少し、物事を見通す目を養う必要がありそうだな。
「思い立ったれば、すぐに実行するのが吉ですぞ、母上。早速今から断食を始めましょう!勿論、我等も御一緒致します…良いな、子上?」
「えぇっ!?あ…は…はい…」
「あ…有難う、二人共…」
あぁ…母上の瞳にうっすらと涙が浮かんでおられる……きっと嬉しいのだな、我等の心が。
母上、礼には及びませぬぞ。この司馬師子元、母上の子として、母上に殉ずる覚悟は出来ております!
さぁ、大いに父上を後悔させてやりましょう!!
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