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□司馬家な人々。
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「全く…世話の焼ける人」
そう嘆息しながら、今私は見知らぬ女の屋敷を尋ねに来ている。
何故見知らぬ女の所へ行くか、ですって?仕方無いでしょう。夫が病に倒れたなどと聞いたのだから。それも側女の所で。
そして何故見知らぬかと言えば、夫が私にはその女を見せたがらないから。−殺されるとでも思ってるのかしらね?そうだとしたら……懸命な判断だわ。流石私の夫ね。
あぁ、忘れていたわ。私は張春華。司馬懿仲達の正妻。夫を今の地位に押し上げたのは、少なからず私の内助の功があったからなのだと…貴方達は御記憶しておいて頂戴?
言っている間に着いた様ね。随分と立派な御屋敷ですこと。我家など、そろそろ改修が必要な有様だというのに…何て忌々しい。
「…どちら様でしょうか?」
私が従者と共に門に近付くと、門兵が私達を睨み付ける。口調こそ丁寧だけれど、敵意は隠そうともしないのね。ここの主の、教養の高が知れること。
「こちらは司馬懿殿の奥方様であるぞ。わざわざ司馬懿殿の見舞いに参られたのだと伝えよ」
「…かしこまりました。では少々御待ちの程を」
そう言って恭しく一礼すると、門兵は屋敷へと消えて行った。……私達を門の外に取り残して。正妻の私が側女ごときの屋敷をわざわざ訪なったというのに!何て扱いかしら…!
「御待たせ致しました」
五分程で先程の門兵は戻って来た。随分と時間のかかったこと。夫に目通りしたら、まず一言言ってやらなくてはね。
「大変申し訳ございませんが、奥方様をお通しすることは出来ません」
……何を言っているのかしら、この門兵は?
「どういうことだ!?奥方様直々のお越しだぞ!?」
「司馬懿殿が、奥方様にはお会いしたくないと…。代わりに言伝を御預かりしてございますが」
「…聞かせなさい。夫は何と言っていたの?」
私がそう促したのに、門兵はなかなか口を開かない。たかが言伝を伝えるのに、何をそんなに躊躇うことがあるというの!?だから愚図は嫌いなのよ!
「では…お伝え致します。『今頃何をしに来たというのだ?老いぼれの顔など見とうないわ』…だそうです…」
「………そう」
私はそれだけ言って門を後にした。怒らないのかって?怒っているに決まってるわ。
でも良いのよ。
私を怒らせたこと、あの人に後悔させてあげるわ…。
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