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□Empresses.
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#1.取扱注意


「劉ちゃーん…大丈夫?」
劉備の顔を覗き込みながら言ったのは、彼の妻・甘。
「だ…大丈夫、だ…!今なら…雲長と、翼徳の二人を…素手で相手出来そうな気がする…っ!!」
「そ、それはあまりにも無謀です、殿!!」
「そぉよぉ、劉ちゃん。関ちゃんも張ちゃんも手加減なんかしてくれないわよぉ〜?」
「いや…行ける行ける…楽勝だ…はは…」
息苦しそうに言う劉備、とうとうヘラヘラ笑い出した。普段絶対そんなことが無いだけにかなり不気味である。劉備は今、風邪をこじらせて床に就いているのだった。
「まずいですね…」
そんな劉備の様子を見ながら、諸葛亮が呟いた。
「このままでは…殿の命に関わるやも…」
「駄目よぉ、劉ちゃん!死んじゃ嫌ぁ〜!」
「御安心を、甘殿!この趙子龍、命に代えても殿を昇天させたりは致しません!」
劉備を挟んで変に盛り上がる二人。その鼻先を突然何かが掠め、ドカッという音と共に壁に突き刺さる。−白羽扇であった。
「少々黙っていて頂けますか、お二人共…?」
微笑みながら言う諸葛亮。しかしその眼は全く笑っていない。勿論二人以外の者も静かになった。
「まずは殿の熱を下げることが重要です…薬草を煎じて参りましょう」
「それなら私に任せてぇ〜孔明君♪」
満面の笑顔で言った甘を、全員が凝視する。
「私ねぇ、最近お薬作りにハマってるのぉ〜♪」
「し…しかしですね、甘殿」
「なぁに〜?」
「えー……と…」
甘の屈託無い笑顔に怯む諸葛亮。周りを見回してみるが、誰も彼に加勢はしてくれない。こうなってしまっては、頼れるのはもう…
「…趙雲殿。貴方はどう思われますか?」
比較的甘と仲の良い趙雲だけ。
「良いではありませんか!甘殿、是非殿に薬を煎じて差し上げて下さい!」

…言っちゃったよ…。

甘と趙雲以外の全員が頭を抱えた。
「子龍君もそう思うってぇ〜♪だったら良いよねぇ、孔明君♪」
「ええ…もう好きになさって下さい。ここで亡くなる様なら、殿も所詮はそこまでの器だったということでしょう…」

天才軍師諸葛亮・初めての敗北。

「よぉし!それじゃ頑張ろうね、子龍君!」
「はい、甘殿!」

かくして甘と趙雲の、“劉備に贈る☆愛情たっぷり風邪特効薬”の製作が始まったのだった…。
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