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□おじいちゃまは心配性
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長安にある壮大な城−ここは中華の覇王・董卓の居城。今現在この城には、重々しい空気が満ちている。
−それは何故か。
「とおぉはくぁああっっ!!」
城の主である董卓が、狂った様に叫ぶ。
それもその筈。董卓最愛の孫・董白が何者かに誘拐されてしまったのだ。
「お、落ち着いて下さいませ、董卓さ…」
「黙るぇえええっっ!!」
「うぎゃあぁああっ!!」
董卓を抑えようとした男が、断末魔を上げて倒れた。しかし董卓はそんなことには一切構わず、ただ嘆き続ける。
「董卓様、嘆かれるより先に対策を練るが上策かと…」
横から李儒が口を出す。
「ならば作れ!今すぐ対策本部を作れぇえっ!!」
…という訳で作られた、『董白誘拐事件対策本部』。本部長には董卓自らがなった。
(こんな錯乱状態の方の指揮で大丈夫なのか…?)
という思いが周辺の者達の頭を過ぎったが、実際口に出す者はいない。
「ならばまずは…」
少し落ち着きを取り戻した董卓が、早速指示を出そうとする…
「これを書いた者はどいつだ!?」
…のかと思いきや、その口を突いたのは質問。『董白誘拐事件対策本部』の看板を指さし、董卓は辺りを見回した。
「は…?私、です……ぐぁあっ!!」
手を上げて名乗り出た男が断末魔を上げて崩れた。他の人間達が呆然と事態を見守る中、董卓は怒りも露わに叫んだ。
「儂の愛孫を呼捨とは何事か!?しかもただの板に墨で手書きしたものではないか!!祐筆を呼べ!板も新しい物に変え、よく飾り立てろ!!」
「董卓様、かようなことをしている間に、董白様がより危険な状態になられてしまうと存じ上げますが?」
また李儒が口を出す。
「な、何っ!?…ちっ、許せ、董白…この儂の力、及ばなかった…っ!」
周囲の人間達が胸を撫で下ろす。何人かは祐筆を呼びに走った。
李儒という人間の存在に、これ程までに周囲の人間が感謝したのは初めてだろう……もう後にも先にもこんなことはありそうに無いが…。
かくして『董白誘拐事件対策本部』は、『涼州の華麗なる名花・董白様が誘拐なされるという天地を揺るがす大事件対策本部』とされた。因みにこの全く無駄な装飾部分は、李儒の計らいによる。
(李儒様…文章力無ぇ…)
皆そう思ったが、口に出す者はいない。ただ董卓だけが、
「見事だ…!」
と感嘆の声を上げていた…。
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