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□Xmas in 曹魏
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「父上」
全てはまだ幼い曹叡の、この一言から始まった。
「何だ、元仲?」
「今日が、何の日か御存知ですか?」
息子の言葉に、曹丕ははて…と首を捻った。別に何もあった気がしない。しかし曹叡は、何故かとても嬉しそうな顔をしている。
「…な、何日だ、今日は?」
とりあえず尋ねてみた。聞けば何か、思い当たるものがあるかも知れないと思ったのだ。が。
「もう、何言ってるんですか、父上?今日は師走の二十五日ですよ!」
「二十五日…?」
何を言われているのか、曹丕にはさっぱり解らない。だが、曹叡は何か期待に満ちた様な表情で曹丕を見上げている。
「あ…案ずるな、元仲」
無理矢理に笑顔を取り繕い、曹丕は言った。
「全て…ちゃんと仲達に任せてある」
…とりあえず言い逃れ。“仲達”の名を出しておけば、大概は何でもどうにかなる…曹丕はそう信じてやまない。
「わぁ、流石は父上です!じゃあ僕も準備して来ますね!」
眩しい笑顔で言い、曹叡は自室へと駆けて行った。その姿が見えなくなると、曹丕は踵を返し、叫んだ。
「仲達は何処だ!?」

「い…一体何事でございますか、曹丕様」
曹丕が自分を呼んでいると聞き、彼の自室へと足を運んだ司馬懿は尋ねた。しかしそれには答えず、曹丕は逆に司馬懿に問う。
「仲達よ…今日が何の日か知っているか?」
「は…はい。“クリスマス”というものですね」
「…くりすます…?」
かなり怪しい発音で繰り返した曹丕に、司馬懿は怪訝そうな顔をする。
「曹丕様…失礼ですが、クリスマスのことは…?」
「…全く知らぬ」
視線を逸し、曹丕はぼそりと呟いた。その横顔を見ながら、司馬懿は彼に気取られぬ様に深々と溜息を吐いた。どうやら、面倒なことに巻き込まれそうだと瞬時に感じ取ったらしい。
「それにしても、何処で聞いてらしたんですか?クリスマスなど…」
「元仲が…『今日は何の日か』と聞いて来てな…」
「え…曹叡様が…」
曹叡の名が出た途端、司馬懿の表情が明らかに困ったものになる。
「どうした、仲達?」
「これは…まずいかも知れません」
「何がだ?」
「クリスマスには、子供にプレゼントをやるのが慣だそうですから…曹叡様も、プレゼントを期待していらっしゃるのでは?」
今からでは色々と間に合わぬのでは…と心配そうに言う司馬懿。しかし曹丕は余裕の表情で言った。
「それなら問題無かろう。元仲にやる物ならある」
「本当ですか!ならばプレゼントは安心ですね。…因みに、何をプレゼントなさるおつもりですか?」
「帝位だ」
曹丕は自信満々に言い放ったが、それを聞いた司馬懿は呆然とした顔をしている。
「…曹丕様」
「何だ、仲達」
「貴方が帝位に御就きになったのはいつです?」
「半年程前だったと思うが」
「もう…政権交代ですか…?」
「可愛い息子の為だ。それも仕方あるまい?」
―ああ。
司馬懿は内心頭を抱えずには居られなかった。…無知は罪、とは良く言ったものだ。
「曹丕様…それは、あまり宜しくないかと…」
「何故だ?一国の王の血筋に生まれたからには、自らその頂点に立ちたいと思うのが道理だろう?」
「確かに……って、それは貴方の道理でしょう。曹叡様はまだ子供なのですよ?」
「その位の気概を持たぬ様な子、私の子ではない」
司馬懿の言葉を、この一言でばっさりと斬って捨てた曹丕。余程自分と曹操様の教育が悪かったのだろうか…と、最近頻繁に思っていたりする司馬懿である。
「…とにかく、プレゼントは形ある物の方が喜ばれます!何か曹叡様が欲しがりそうな物に、心当たりなどありませんか?」
「物、か…」
そう呟き、曹丕は考え始めた。政務の時ですら見られない程、曹丕は眉間に皺を寄せて考え込んでいる。
そしてその少し長い沈黙の果てに、曹丕が導き出した答は、
「ならば仲達が良い」
だった。
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