懸想の三蔵
□ナナミ様へ寄贈
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昔から、よく夢を見た。
ひどく悲しい想い出が香るのだけれど、それがどんなものかはわからない。
目が醒めると、必ずしも忘れてしまっているのだ。
けれど、確かに覚えていることがある。
“必ずや、迎えに来よう。”
面影さえ朧にしか思えない、冠者の陰翳。
最近は、忘れていたのだけれど。
交わしたその契りを、彼は決して忘れてはいなかった。
ふっと、鯉伴がおもむろに顔を上げた。
「鯉伴様?」
百鬼の最前で、突然立ち止まった主を、背後の妖達は怪訝そうに窺う。
形の整った柳眉を顰め、鯉伴はすっと目を細める。
「総大将?」
「二代目、如何されたか。」
配下の連中が声を掛けるのも彼の耳には入らず、鯉伴は歩を進める。
いつになく急ぎ足の彼に、諸々は首を傾げて着いて行った。
彼らより先に、夜陰に紛れて足音もなく屋敷にやって来た者に気づいた者は、未だいない。