懸想の三蔵
□春待つ冬のおかしき
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元治元年、師走も中旬。
春待つ極月に、今年は寒波が冷たい。
秋の長閑もどこへやら。
急に奇襲した寒さに、誰もが肩を竦めて縮こまった。
「だぁあ!左之さんさっきから当たりすぎだって。」
「そうだぞ、左之!おまえばっかりずりぃぞ!!」
「うっせえな。寒いんだから仕方ないだろ!」
「寒いからこそ黙っとけないんだろうが!!」
前川邸の庭先で千鶴がわずかに残った枯葉の始末をしていると、寒さも感じさせないような威勢の良い声が聞こえてきた。
声につられて行って見ると、焚き火に当たっている三人と目が合った。
「おう、千鶴じゃねえか。」
「このくそ寒いのに働かされてんのか?」
「そりゃ可哀想に。土方さんも鬼だな。」
「だって鬼副長だし。」
「だな。」
どうやら、箒を持っていたのがいけなかったらしい。
千鶴は慌てて、首を振る。
「いえ。土方さんに頼まれたわけじゃなくて。私が、気になったものですから。」
「かあー。この寒い中、感心感心。」
「千鶴もそんなとこいねえで、こっち来いよ!」
平助が駆け寄って来て、逡巡している千鶴の手を引いて誘う。
その際に彼女がほんのり顔を赤らめたのは、きっと気のせいではあるまい。