懸想の三蔵

□冬ぞ散る、桜吹け
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((泡沫の 人ぞあざるる いつぞやに――))
















冬が、来た。

冷たい風が、頬を撫でて。

私はそっと、涙した。


春に誇らしげな、その花を想って。

そう。それは儚げな桜。

桜が似合う、あの人達を想って。



























何度目かの、春が来た。

慶応四年、一月三日に始まった鳥羽と伏見での役。


彼女にとって、虚しさだけが残るその戦は、十年近く前のこの頃に始まった。

十年の月日は、彼女からすれば刹那だった。


どんな苦境を目の当たりにしても、腐敗した国家を嘆かず。

己が士道に命を賭け、それゆえに信じたものを揺るがず。


錦旗より、葵の紋より。

彼らが信じたのは、誠の赤旗だった。


叛徒の汚名を背負わされ、逆賊とされた彼らは、忠義を誓った幕府からさえ疎まれた。

それは、時代がそうさせたのだ。

誠を、侍としての最後の意地を以って蜂起した彼らは、強大な勢力の前ではあまりに非力だった。



「皆さん。もうすぐで、また一つ、年が暮れてしまいます。」



あなた方と過ごした想い出が、また遠ざかってしまう。

あなた方は言うでしょう。

今の精彩を欠いた私に。



“泣いてんじゃねえ。”


“この新選組にいる以上、涙を流すな。”



土方さんなら、眉尻を吊り上げてそう言ったでしょう。

でもね、私は知ってるんですよ。


一人、また一人と。

皆さんが身罷る中で、あなたが一番泣きそうな顔をしていました。



「土方さん。重過ぎましたか?」


あなたが背負った、多くの命と矜持は。


「沖田さん。無念でしたか?」


近藤さんの最後まで従うことができなくて。


「斎藤さん。辛くありませんでしたか?」


土方さんの片腕であり、彼から離脱を決した時は。


「原田さん。見つかりましたか?」


あなたの命が賭けられるほどの、存分に戦える場所は。


「平助くん。笑えていますか?」


決して、後ろを振り返らなかったあなただから。


「永倉さん。そちらでは近藤さんと仲直りしましたか?」


あなたは決して、近藤さんを疎んじたわけではないから。


「山南さん。もう、腕の調子は治りましたか?」


あなたは冷静だから、きっと惑いから醒めているでしょう。




――そして。


「近藤さん。あなたのお仲間は、息災ですか?」


どうか、無事でいて。

悲しいままで、終わらないで。


「私は、信じています。」


あなた方の誇りが、正しかったと。

あなた方の選んだ道は、士道であったと。


そう信じて、疑わない。

あなた方の辿り着いた先が、どうか幸福で満ちてありますよう。

どうか、どうかお願い。


「私がこの国の先を、あなた方の守った武士の行く末を見届けて、そっちに逝ったら、」


じわり、と目もとが暑くなり、視界が滲む。

咽喉の奥がつんと痛んで、思わず歯を噛み締める。


必死に、笑った。

あの人達がそうしたように。


「また、お仲間にしてくれますか?」


だから、どうか待っていて。

その時は伝えたい。


この日の本に、あなた達は必要だったと。

笑って、駆け寄れるよう。







今はただ、この瞬間を精一杯に生きようと思う。






























((――命賭けむと 散るぞかなしき))









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はい、年の暮れに悲しい話です。
突発ものです、はい。
新選組は私めに夢をくれたうえ決起させてくれたというに。
何も供養が出来ないのが本当に申し訳ないのです。

彼らの武勇を初めて聞いてから、数年が経ちますが。
感服せぬ話は御座いません。

あと、最後の一句なのですが、少し解説を。
といっても、これも突発ですのでいろいろ句法が間違っていたら申し訳ないですorz

あざる、は鯘ると狂るの掛詞。
かなしき、は愛しき。
で受け取っていただけると幸いです。


短くも人の慌て、腐敗した先頃に、命賭けて戦おうと散った人達が、しみじみと心に染みて素晴らしく思うことだ。
...とこんな感じに受け取ってやってくださいませ。






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