懸想の三蔵
□太陽にも月にも
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あなたを魅力的にする。
だから、負けたくないの!!
太陽にも月にも
「もう12月にはいったのに、日差しは暖かいわね」
「そうですねー。ぽかぽかしてますよね!私はちょっと暖かいのは苦手ですがこうやって縁側でゆったりするのもいいですね!」
ある日のぬら組本家の屋敷。
2代目総大将の奥方である若菜と雪女であるつららは縁側で日向ぼっこをしていた。
季節はもう寒さがみにしみるころにもかかわらず、日差しは暖かい。
「2人して何してるんだ?」
そこに現われたのは若菜の夫、鯉伴だ。
今目覚めたとこなのか、眠たげに欠伸をしている。
「あらあら…鯉伴さん今起きられたんですか。おはようございます!今つららちゃんと日向ぼっこをしていたんですよ」
「おはようございます、鯉伴様っ!」
「…そうかい…おはよ」
鯉伴は2人にむかって
柔らかく微笑んだ。
かわいい下部と愛してやまない奥方から挨拶されては、さすがの鯉伴も少し照れているようだ。
鯉伴はそのまま
若菜の隣に腰掛けた。
―と、同時につららは腰をあげる。
「あら?つららちゃんどうしたの?」
「私、今から昼食の準備をしてまいりますね!」
「もうそんな時間かしら…じゃあ、わたしも…」
「いえ!若菜さまはもう少しここでごゆっくりしていて下さい、せっかく鯉伴様もおみえになったのですから!!」
つららはにっこりと微笑みながら「失礼します」と言ってペコリと一礼すると台所の方へ行ってしまった。
「つららちゃん、行っちゃいましたね」
「なんだい?俺が隣じゃ不満かい?」
つららの後ろ姿を見ながらつぶやいた若菜に鯉伴が笑い混じりに聞き返す。
するとすかさず若菜から返事がくる。
「まさか!鯉伴さんが隣にいて、不満なことなんかないですよっ!!むしろ光栄なことです!!」
年相応の無邪気で純粋な笑顔で言うと、鯉伴は一瞬驚きながら「そうかい、なら良かった」と言って外に目線を移し、少し眩しそうに、そしていとおしそうに景色をみていた。
そんな夫の姿から
若菜は目を離せないでいた。
妖怪とは普段は夜に活動する。
特に鯉伴には月がよく似合うと思う。
百鬼夜行を背負い月の光を浴びる姿は一度見たら焼き付いて離れない。
…でも……陽の光、月とは正反対の太陽の光を浴びる彼もまた、こんなにも魅力的であると若菜は思った。
光を浴びて輝きを増すきれいな黒髪、整った顔立ち、そしてその全身から漂う風格。
彼をこんなにも魅力的にしてしまう太陽にも、月にも、若菜は嫉妬してしまう。
若菜は隣の鯉伴の腕にぎゅっとしがみついた。
まるで太陽に「彼はわたしの旦那様なんです」と主張でもするかのように。
「どうした若菜?」
少し心配そうにたずねてきた夫に若菜は素直に思ったままを口にする。
「太陽さんに嫉妬してしまいました。あなたをあまりにも魅力的にするから。だから、鯉伴さんはわたしの大事な人ですって主張したくなっちゃったんです」
ちょっぴり照れたように、でもやはり無邪気に純粋に、思いのまま伝えると鯉伴は「もっと主張してくれてかまわないぜ?――おまえが一番俺を魅力的にしてくれてんだからな」と笑いながらやさしく頭をなでてくれた。
好きなキモチは
絶対負けません!
(例え相手が太陽や月でも)
(妬いちゃう私を許してね)