懸想の三蔵

□日向ぼっこ
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呼べば、それはとてとてとやって来る。


「おいで、トラ吉。」


呼ばれた茶と白の模様を持つ三毛猫は、ぴくりと耳を動かしてそろそろと彼女のもとへと近づいて行く。

差し出された手に、三毛猫はぶるんと首を振ってから擦り寄った。

その仕草があまりに可愛くて、若菜は思わず微笑む。

抱えて、一緒に簀子の縁側に座る。

昼の心地よい日差しに、一人と一匹はこぞって目を細めた。


この猫と初めて会ったのは、つい先日のこと。

尻尾が三本あることから見るに、化猫組の誰かの赤子らしく、時折屋敷内をうろうろしているのをよく見かける。

果たして本当に妖なのだろうか、気になるところだが、若菜が世話をしてやると、すぐに懐いた。

時々股旅や餌をやると、嬉しそうにごろごろと喉を鳴らす。

その様子が可愛くて、可愛くて。

若菜はここ数日、首ったけになっているのである。


「今日は特にいい天気だね。トラ吉も、お散歩に来たの?」


なー、と欠伸交じりに、返事をしてくれる。

眠たげなつぶらな瞳が、若菜を見上げてくる。

トラ吉、というのは若菜の命名である。

本当は違う名前があるようだが、まだ未熟なこの化け猫は、人型に成ることができず、口が利けない。

だから何となしに、若菜が名前をつけたのだ。


細いふさふさの毛並みを撫でてやると、あまりに気持ち良さそうに眠りかけるので。

つい悪戯心で、逆撫でしてやった。

ぎにゃっと悲鳴が上がって、尻尾が三方向にぴんと伸びる。

そして、おどおどと周りを見回している。

その愛らしさに、若菜は思わずくすりと笑った。


「ごめんね。だってね、あんまり気持ち良さそうにしてるから。」


みゃあみゃあと抗議の声を上げるトラ吉の頭を、若菜は撫でてやる。

すると単純にも、満更でもないような顔をする。

こうして、白昼の長閑な日はゆっくりと過ぎてゆく。







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