懸想の三蔵
□三代に継ぐ
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奴良組の酒宴の席は、何かと騒々しい。
その宵の定例会議の後、暇のある妖は集って宴席に参じる。
とはいえ、別にめでたいことがあったわけではない。
単に、派手好きなぬらりひょんの趣向であるのだ。
この日は珍しく、二代目総大将の姿もあった。
この人は普段、宴よりも夜陰の下での一人酒の方を好むらしく、公の時以外は大抵こういった席にはいない。
けれど、今宵は興が湧いたのか、がやがやと騒がしい中を一人酒を呷っている。
ほんのりと頬を赤く染める彼の傍らに、酌をすべきかの娘は、今はいなかった。
「ん?鯉伴。若菜さんはどうしたんじゃ。」
「あ?」
半眼で気だるそうに父を見上げて、鯉伴は盃を持たぬ方の手をひらひらと振った。
「昼間っから、リクオにつきっきりよ。夜泣きがひどいらしい。」
「それなのにおまえ、こんなところで呑んどっていいのかい。」
「俺がいても、何の力にゃならねぇからな。ついてても邪魔なだけだろ。」
酩酊の寸でのところ、といったところか。
些か拗ねているのか、常より酒の量が多い。
鯉伴は酒に弱いわけではないが、決して強いわけでもない。
というのも、彼の母である珱姫が、酒気にからっきし駄目だったからである。
だから、人並み以上に飲みすぎては些か質が悪い。
やれやれ、とぬらりひょんは浅く息を吐いた。
その向こうで、騒々しさは増すばかり。
そろそろ泥酔する者も多くなり、皆質が悪くなってくる頃か。
これらはヤクザ者だ。素行が悪くなれば、何をするやら。
だから、面倒になる前に席を外す賢者もまた多い。
毛倡妓は黒田坊と呑み比べして、両者ともに伸びきっているし、首無はそれを止めるのに必死だ。
青田坊は納豆小僧や良太猫と賭博に臨んでいて、明らかにイカサマの手を使っているのが見て取れる。
他にも、そろそろ出来上がってきている連中は数多いる。
素面である者など、見回す限りでは彼と首無くらいだ。
もっとも首無も周りから酒を強要されて、口に流し込まれつつあり、それを首だけで転がって避けるのに必死な様子であるが。
とりあえず、まともな奴がいない。
これは、若菜とリクオがいなくてよかった。
もしこの場にあらば、連中から何か害を受けるか知らぬ。
よかったよかったと頷くぬらりひょんは、救われた気になった。