懸想の三蔵
□風邪の功名
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「お母さん、大丈夫?」
心配そうに覗き込んでくる我が子と、その背後には高い天蓋。
ふぅ、と息をついた若菜は、へにゃりと力なく微笑んだ。
「大丈夫よ、リクオ。」
「でも、顔が赤いよ?」
「ただの風邪だもの。心配しないで。」
リクオは不安げに母の汗ばんだ額に手を触れた。
真昼から褥で咳き込む母は、今風邪を召している。
もともと元気健在の彼女が、今日ばかりは弱々しく。
それがまた儚げだった。
そんな母が心配で、リクオは幼い己が小さな手で、必死に母の手を温めようとする。
それが若菜にとって、どれだけ心強くあったことか。
「大丈夫だよ、お母さん。僕、ずっと看てるからね。」
「ありがとう、リクオ。」
また瞼が重くなって、頭がずきりと痛む。
障子の向こうから入ってくる凩が冷たい。
夜具の中で、若菜は身を縮ませた。
不覚だった。
季節の変わり目であるこの時期に、安易にも自分の身体の管理を見誤るとは。
これでは、炊事の一切を引き受けた毛倡妓と雪女達は大変だろう。
きっと今頃は、夕餉の支度をしている頃か。
大騒ぎしていないといいけれど。