懸想の三蔵
□千歳
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千歳
お空が橙色に染まる時刻でした。
すっかりお化粧を済ませた葉を見上げて、私は縁側で一休みをしていました。
柔らかな西日に照らされて、うとうとと微睡んでいると、ふと、右隣に陰が差しました。
そちらに視線を向ければ、愛しい人がいて、どっかりと腰を下ろした所でした。
「鯉伴、さん…」
眠気に絡め取られた、どこか頼りない口調で呼ぶと、彼はふっと微笑みかけて下さいました。
それから、慈しむように、私の髪を、撫でてくれます。
「見事だな」
庭に咲く紅葉や銀杏のことだと理解し、私は緩慢に頷きました。
ひらひら、すぐ側を、木の葉が舞います。
「…と思ったが。いや、やっぱりまだまだだ」
「…え?」
「若菜の前では、見劣りする」
そう言う鯉伴さんの瞳は、どこか妖しい魅力で溢れていて。
どきり、と、心臓が跳ねます。
言ってる意味がよく分からず、聞き返そうとした唇を、鯉伴さんと同じもので、塞がれました。
「若菜が一番、綺麗だ」
触れるだけの口付けの後、耳元で囁かれた台詞は、私の頬を染めるには、十分でした。
睡魔なんてどこかへ去ってしまい、鯉伴さんを軽く睨もうとして、胸が締め付けられました。
何故なら、夕焼けを背にした鯉伴さんが、あまりにも綺麗で。
まるで、神様仏様のようなその姿に、私は急な孤独感に苛まれます。
嗚呼、私のような、脆弱でちっぽけな存在は、いつまで貴方のお傍にいられるのでしょう。
私はいつまで、貴方の心に生きていられるのでしょう。
こんなにも近くにいるのに、彼の体内に半分だけ流れる血が、見えない壁を作っているような錯覚を覚えてしまうのです。
だって、力も、生きている時間も、違い過ぎるから。
「若菜…?」
彼が形の良い眉を潜めました。
それとほぼ同時に、冷たい液体が私の頬を滑りました。
しょっぱいそれを拭おうとすると、鯉伴さんの腕に抱かれていました。
ひらひら、ひらり。踊り落ちる葉っぱを目に、いつしか私もああなるのかしらと、どこか他人事のように思いました。
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融解ハニーの小枝まき様からいただいた、相互記念小説にございます!
あわわっ切甘でしたが…こ、これは涙腺が潤い胸がきゅんっ…。
やっぱり、小枝様の作品は素晴らしいです!
これからもよろしくお願いします♪