堪え忍ぶ者達へ
□精一杯の背伸びを
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サクラのお付き合いする相手は、俗に言うイケメンである。
サスケの容貌が良いことで、苦労したことは昔から多々ある。
昔から班が同じで日頃一緒にいた彼に向けられる女の子達の黄色い声には慣れっこだった。
それでも昔のサクラは積極的で、よく自分から彼に抱き付いていたものだ。
しかし、時は流れて今、サクラはたまにしか里に帰って来ないサスケを見ると、ふいにその積極性を失ってしまうのである。
と同時に、隣に並びづらくなる。
こんなことを、親友であるいのによく話したりもする。
「で?イケメンでもってもてのサスケくんの隣にいると見劣りしちゃうのが怖くて一緒に歩けないって?」
「そうじゃないけど、なんて言うか、サスケくんの株を下げてる気がして」
「なーにを今更弱気になってるんだか」
そう言っていのは肩を竦める。
夕暮れの公園で、サクラといのは二人ブランコに揺られながらそんな話をしていた。
もうじき夜になるが、今夜は久しぶりにサスケと散策が出来る約束になっている。
所謂、デートである。
幼い頃のサクラであれば、手を叩いて喜んでがんがん攻めにいくところだが、十年も経てば人の性格は変わるというもの。
なぜか変なところで弱気になってしまった彼女は、サスケのこととなると積極性がない。
色々あったのだから仕方ないことだが、それにしたってネガティブに考える傾向がある。
親友であるいのから言わせれば、引け目なしにサクラも十分美人だ。
それに、サスケ自身が選んだのはサクラなのだから、その見た目がどうだろうが堂々としていて良い筈なのだが、どうやらそうとは考えられないらしい。
その上、最近のサクラの積極性のなさと言ったら、驚かされるものがある。
人前でべたべたするのが嫌いなサスケの普段の様子からは想像も出来ないが、話を聞いていれば、サクラよりもサスケの方が積極的であるというではないか。
「この前だって、あんたサスケくんと折角良い雰囲気になった時に拒否したって言ってたじゃない」
「拒否じゃないの。…だって、サスケくんの顔が近づいてきて、直視してられなかったんだもん」
「しかもそれ、同じ部屋で寝る時でしょ?」
サクラは黙って顎を引いた。
――やれやれ、サスケくんも苦労するわね。
随分と待たせた挙句、色々と葛藤した果てにやっと手に入れたサクラという恋人を前に、黙って放っておくほどサスケも無愛想ではなかったらしい。
やっとのことで同じ部屋で就寝できる関係になったのに、キスすら出来ない。
そんなことをしようとすれば、すぐに警戒されて寝入られてしまう。
また、普段二人でいる時に少し触れ合おうとするのにも、サクラの心臓がもたないらしく、すぐに混乱してしまう。
さすがにそんなサクラ相手に無理に迫るようなサスケではなく、ここ最近はじっと耐えているといったところである。
まさに生殺しではないか、といった場面も何度かサクラの口から聞かされている。
やれやれ。まったく世話の焼ける。
「ほーら!今からデートなんでしょ?そんないかにも仕事帰りですーなんて格好でいないで、さっさとめかしこみなさいよ」
「で、でもサスケくんの好みってどんなのかわからないし」
「ああもういいから、ほら、私の家行くわよ」
それから約束の時間ぎりぎりまでのおよそ二時間、サクラはいのの手によってじっくりとコーディネートされたのである。