長編

□第三夜
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「火急の足労、痛み入る。皆、よく来てくれた。」


幹部の面前で堂々と腰を下ろした鯉伴に、ずらりと並んだ視線がいっせいに集まる。

無論、彼が怯む筈もない。


「して、何ですか。こんなに早くに面子をそろえるなど。」

「まあ、そう話を急ぐな。」


口を開いた一人を嗜め、鯉伴は表情を消した。


「わかっているだろう。――西国の話だ。」


動揺も、怪訝な動きもない。

皆、あらかたの予想はついていたのだろう。


「西国妖怪一派は、ここ連日、夜な夜な派手な妖狩りをしてるんだと。
その矛先が、我ら奴良組に近づいてきていること、知ってはいるか。」


これには、ざわりと一部が揺れた。

大方、遠国のものにまで噂は広まっていないらしい。

鯉伴はざわめきを手で制すと、続けた。


「こうしているうちに、連中の百鬼は増える。
さすれば、妖達は荒れ、秩序は乱れる。
後々肥えて膨れ上がっちまった連中を相手にするより、今のうちに片をつけてしまったほうがいい。」

「だが総大将。連中がいつ、どこに出没するかなど。」

「ああ、わからんさ。検討もつかない。」

「でしたら、どう退治するおつもりで。」

「わからねぇか。呼ぶんだよ。」


にっ、と悪戯げに、彼は笑った。

側近として近くに控えていた首無と黒田坊が、はっと顔を上げた。


「まさか、総大将。」


勘が鋭い者は、すぐに気がついた。


「今この屋敷には、妖として名高い幹部連中と、本家の強者が多く在る。
いっぺんに集合してくれてるわけだ。しかも、夜に。
……ということは?」


全員が、声を失うか、動揺した。



この男は、百鬼を、連中を、誘き寄せるつもりなのだ。




「いいか、おまえら。」


だんっ、と鯉伴が座ったまま片足で地団駄を踏み、前のめりにその場にいた全員を見渡した。


「おまえらは、俺が選んだ腕利き達よ。小妖怪達にゃ、一時退いてもらってる。
よって今この屋敷は、いつ戦になっても万全なわけよ。」

「お待ちください、総大将!まずはきちんと調査し、勝機を」

「だったら逃げるかい?俺ァ構わないぜ。
だが、傷つくのはあんたの矜持よ。
しょせん、勝算なんざあくまで確率にしかすぎないさ。
戦なんてもんは、常に何が起きるかわかんねぇ。喧嘩と同じよ。
窮鼠が猫を噛むように、喧嘩もどちらが勝つかわからねぇ。
それにどうだ。今なら、俺らの方が数の上じゃ優勢だ。
相手がどれほどのもんかはしらねぇが、これ以上でかくなられるよりかは、今のうちに仕掛けてもらったほうが都合がいい。」

「総大将…、」

「それでも異議ありと言うのなら、」


ゆらり、彼の双眸が、彼らを捉える。

そして捕らえ、大将としての畏怖を与える。


「この奴良組二代目総大将、奴良鯉伴の決定に異議あらば、名乗り出ろ。
奴良組の、自分の矜持を守り抜きてぇやつだけ、俺の百鬼に加わりな。」


しん、と広間に静けさが走った。

緊張の中で、誰もが彼に逆らおうなど、一縷も考えていなかった。

この大いなる畏れに、誰もが惹かれていたから。



そして。



































「奇襲です……奇襲に御座います!!!」


























その時を知らせる警鐘が、高々と鳴らされた。











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