二万

□赤司
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「もう、嫌だな」

ふと、思ったことを口に出してみた。この気持ちは何だろう。何もかもがどうでもよくなって、全てを捨ててしまいたい、この気持ち。
あぁ、そうだ。

「死にたい、だ。」

ぽつり、と零れ出た言葉は驚く程私の心に染み込んできた。

「緋色」

声を掛けられて思い出す。そうだ、私以外にも人がいたんだった。
その声は厳かで、少し怒っている様にさえ聞こえる。いや、これは多分、怒っている。

「赤司くん、何?」
「………」

恐る恐る聞いてみる、が返事は返ってこず、気まずい沈黙がその場を支配する。しばらくの沈黙の後、やっと赤司くんが口を開いた。

「何か、あったのかい?」
「えっ…?」
「例えば、いじめられた、とか」
「そんなの、ないよ!」
「友人関係が上手くいってない、とか」
「ううん、普通」
「嫌なことがあった」
「特にはない、と思う」
「じゃあ、なんで」

死にたい、とか言うんだい?
凜、とした声で発せられた質問に困る。意味はないのだ。死にたい、と思って口に出した理由など特に思い付かない。
それを赤司くんに伝えると、理解出来ない、とでも言うように眉を寄せた。
…気を悪くさせたかもしれない、どうしよう

「じゃあ緋色は何の理由もなく、ただ衝動的に死にたいと思い、口に出したかい?」
「……そういうことになります」
「じゃあ、」

そこで一度、言葉を切った赤司くんの声は少し強張っているように思えたけれど、それはない、と思い直す。だって赤司くんだし。強張るとかないわ。

「緋色は、衝動的に死ぬこともあるかもしれない、ってことだね?」

その言葉にひゅ、と一瞬息が止まる。だって、そんなのわたしにはわからないよ。なんでちょっと口に出した言葉でこんなに責められるの。
文句は頭の中で思うだけで、実際は、赤司くんの前ではそんなこと言える筈もなく、早く答えないとさらに赤司くんの機嫌が悪くなることは分かっている。

「そう、かもしれない」
「そう……」

赤司くんはそれっきり黙ったままで。私はというと、さっきのわたしを全力で殴りたいくらい、後悔をしていた。
わたしなんであんなこと言っちゃったんだろう…。別に本当に死にたいとか思ってたわけじゃなくて、ふと、もう何もかも捨てられたらどんなに楽だろう、って思っただけなのに…。

「緋色」
「はいっ」

赤司くんに呼ばれて、考え事をしていた私の返事は上擦ってしまった。じりじりと寄ってくる赤司くんに思わず後退る。だけど、こんな狭い部屋で逃げられる筈もなく、すぐに壁まで追い詰められてしまった。更に赤司くんが壁に手をついて、私は赤司くんと壁に囲まれて、本格的に逃げられなくなった。
これが噂の壁ドンか。

「緋色、君は今、誰のものだい?」
「え、私は私のものだけど」
「違うだろう?…君は、僕のものだ」
「え…?ちがうよ、わたしはっ」
「緋色、」

冷たく言われて、思わず肩がびくつく。

「えっと、わたしは赤司くんの…です」

その答えに満足したのか、優しく微笑む赤司くん。だけど私は自ら"もの"発言をさせられて、なんか、屈辱だ…。

「だからね、緋色。……今後、死にたい、とか言ったり思ったり、ましてや行動に移したりなんかしたら、許さないよ」

そう言った赤司くんの目は今まで見たことないくらいに冷えきっていて、ぞくり、と背中を冷たいものが駆け抜けた。

「君は、僕の傍でずっと生きていればいいんだよ」

そう言われて、怖い、と思うと同時に、少し嬉しい、なんて思ってしまった私は重症だと思う。






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いい夫婦の日に書くもんじゃない(^q^)

突然、何もかも放り投げたくなること、たまにありますよね

二万お礼に緋色さんに捧げます!
苦情、書き直しは緋色さんのみでお願いします(´・ω・)



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12,11/22

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