小説
□『亜熱帯気分上昇』(気付きそうで気付かない、僕らの気持ち)
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(何で朝からあんな夢を見てんだ、オレ)
チャリをガチャンと停めて安部はガシガシと首の後ろをかじりながら悔しそうに口をへの字に曲げる。
グランドは今日も蝉の声が五月蝿い。朝からジーワジーワと頭に響く。
(欲求不満なのかな。そりゃあ、野球三昧でそっちの方最近してないのは確かだけど)
頭の中で『オナニー』忘れた!、と叫ぶ田島の顔が浮かぶ。
だからといって何でミハシなんだ。女の子ならアイドルとか、他にもいるじゃないか。
(…………)
…ッ!! 誰も思い浮かばねぇ…!
ガァァァンッとなり、着替えようとベンチに向かおうとする。
その足がギクッと止まった。
「…はよ、早いな」
声を掛けた相手もギクッとこっちを見る。
三橋 廉、だ。
「おは、おは、おは よ、ぅ」
いちいち其れだけの挨拶の為に(何でビクついてんだよ)口篭もる相手にイラッとする。
「朝、お 母さんが、コレ 持って行き なさ いって…」
ゴニョゴニョと言う。
チャリの後ろを見るとでっかいスイカが載っていた。
「おお、すげーな」
朝から持たす母ちゃんもすげーが、素直に持ってくる三橋もすごい。
素直に感嘆して声を掛ければ、三橋はパッと顔を輝かせて、ウヘへ、と笑った。