小説

□『亜熱帯気分上昇』(気付きそうで気付かない、僕らの気持ち)
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「あ、安部く、ひゃ…!」
三橋はビクビクと震えていた。高い木枠の窓から暑い日差しが降り注ぎ、ぽたりと汗が流れる。

(…しょっぱい)
「…三橋」
オレは名前を呼んで、細い首を伝う汗をペロリと舐める。

「ひゃ、ァ、あッ」
腕の中で、三橋の躰は面白いぐらい反応して、まな板の鯉のようにビクビクと跳ねた。

「三橋」
細い手首を痛めないよう抑えながら(こんな時でもオレの捕手意識は健在だ)、暑さで浮かされたかのように三橋の脚の間に躰を割り込ませる。

「…はッ、オ、レ━…」
暑いのに、肌が緊張で粟立っている。
息を吐き、少し躰を浮かせて、下に組み敷いた三橋の肢体を覗き込む。

三橋はガタガタと震えながらも唇を噛み薄く目を開け、オレの次の言葉を待っていた。
「…あ、部、く…」

『 何 で? 』

唇が、そんな言葉を形づくる。

「━━━…ッ」
怯えた様と、涙に濡れた金茶の瞳、
見つめられれば、もうオレの理性は切れていた。





━━…ピピッ、ピピピピッ、ピピピピピピピピピピピピ━…

ガシャン!!




「〜〜〜〜…ッ」
ガタタタタッ!!
寝ていた筈のベッドから崩れ落ちる。
オレは枕元の目覚ましを勢い余って叩いて意識を覚醒して。

「…な、なんつー夢…」
朝からカーテン越しに降り注ぐ日差しは強く、掛けていた筈の布団は一緒に床にずり落ちていた。

ドクドクドク、心臓が鳴る。
目覚ましに触れた自分の手のひらは、冷たい汗を掻いていた。

頬は暑さのせいでなく真っ赤に染まり、そのあと真っ青になる。

「…マジかよ」
そう言って安部は口元を覆い、がぁぁっくし、とうなだれた。


 
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