UNDEAD LOVER

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「…宜しく」

ふわりと微笑んだ彼の右手を取り、娘は一言そう言った。正直なところ、いくら命の恩人とはいえ、父を殺そうとしたアンデッドの親玉の息子と宜しくしても良いのだろうか。そんな葛藤が彼女の中で生まれた。

「それで、お前名前は?」
「ファミリーネームは、エベリウス」
「…ファミリーネームだけ?」

目をぱちくりとさせて、驚きの色を見せたルシアに娘は頷いて答えた。

「ファーストネーム、無いの」
「は…?」
「でも父さんたちはあたしのこと、母さんと同じ名前で呼んでた。マミって」
「マミ、ね。お前がそれで良いなら、そう呼ばせてもらうぞ」
「ええ。構わないわ」

頷いた彼女を視界に入れると、ルシアは同じように頷いてからページを捲った。

「アンデッドの話はだいたい理解できたか?」
「うん」
「じゃあ次は"悪霊"についてだな」
「はーい」

開いたページをマミが見やすい角度に置くと、彼は見開きの左側を指差した。

「イラストじゃ区別がつかないと思うが、死霊や"悪霊"にもランクがあるんだ」
「へぇ〜」
「下級のゴースト。所謂、幽霊ってやつだ。これは死霊、つまり害のない霊たちのことなんだ」
「害がないってことは、ただ浮遊してるだけってこと?」
「ざっくり言えばそんなもんだな。このゴーストたちだが、稀に精霊へと生まれ変わることもあるんだが、この話は置いておこうか」

右側のページへ指を移す。

「これが中級のファントム。この辺から"悪霊"に分類される」
「害があるってこと?」
「ああ。ゴーストでも悪戯をするやつもいるんだが、それは死なない程度の軽いもの。だけどファントム以上になると、死人が出るだけじゃなく魂を喰われる」

真剣な面持ちで言った彼の言葉にゴクリと喉を鳴らした。

「死霊と"悪霊"の基準は理解したか?」
「死ぬか死なないかの悪戯をすること」
「…ほんとざっくりしてるよな」
「わかりやすいじゃない」
「左様か」

小さく息を吐いた彼は気を取り直して続ける。

「生き物は死ねばみんな死霊になる。けどたまに未練や想い、一般的に念と呼ばれるものが強く残ったまま死ぬと"悪霊"になることがあるんだ。しかも、これは特に重要だからよく聞けよ」
「う、うん」

人差し指をピンと立てて言うルシアに頷く。

「アンデッドに致命傷を負わされ死ぬと必ず"悪霊"になる」

鈍器で頭を殴られたような、そんな衝撃が彼女を襲った。

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