紅き蝶 白き魂2
□39話
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「美朱、なんでこんな所にいるの?」
「しっ」
食事処となっている一階に下りる階段の影で美朱を見つけた浅葱は彼女の背中に声をかけた。
美朱は驚くこともなく代わりに口に人差し指を添え、静かにとジェスチャーした。
「……分かったわ。それでなんでこんな所で立ち聞きしているの?」
やれやれと肩を竦め小声で問いかける。
小声でなくとも様々な喧騒で鬼宿達には聞こえないと思うのだが、あえてそれは言わない。
そんな姉の様子など気づいていないのか美朱は「割り込めない雰囲気なんだもん」とこっそり鬼宿達を窺いながら言った。
「割り込めないって…」
いったいどんな話をしているのだろう。
呆れ顔で彼女の後ろ姿を見ていた浅葱の耳に不意に柳宿の声が入ってきた。
「―――――― あんたの抱え込んでる不安、もしかしたらあたしと同じなのかもしれないわねぇ」
「え…?」
柳宿の不安?
ドキリと心臓が鳴り柳宿と鬼宿の会話を拾おうと耳をそばだててしまう。
「柳宿?」
「お互い違う世界の女の子を好きになったじゃない。だからね」
「柳宿は……浅葱と―――」
「ずぅーっと一緒にいたいわよ、そりゃね」
一体どんな表情でこんな会話をしているのだろう…と心臓が早まるのを自覚しつつ美朱の後ろから興味で下を覗きこむ。
「……っ」
見た瞬間、胸が激しく高鳴りだした。
柳宿はいつものように笑っていた。けれども今まで見た笑みとは比べ物にならないくらい凛々しい笑みを浮かべ酒を片手に語っていた。
髪を切っただけでこんなに変わるものなんだろうか。
さっきまで普通だったのに彼らが戻ってきた時どんな顔をすればいいんだろう。
高鳴る鼓動を鎮めるように胸に手を当てがいぎゅっと固く握りこむ。恐らく顔は真っ赤だろう。
幸い美朱は男二人の会話に夢中でこちらの動揺に気づいていない。それだけが救いだ。
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