紅き蝶 白き魂2
□38話
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「ったく失礼ね!あたし達を安く見んじゃないわよっ。
いい?浅葱。こういう酔っ払いは言葉じゃなくて力で黙らせることよ。こういう輩は何言っても右から左に突き抜けていくんだからっ」
「えっと………はい……」
生きてるのか死んでるのか全く動かない男を見下ろしていた浅葱は、妙に迫力のある笑みを張り付けた柳宿の言葉にぎこちなく頷いた。
彼のようにはあしらえないが、確かに酔っ払い相手に真面目に対応するのも面倒だ。
素直に頷いた浅葱に柳宿は満足そうな顔で笑った。
「“べっぴん”やて。柳宿は浅葱たちと一緒はやめたほうがえーんとちゃうかぁ?
なぁ、浅葱。柳宿はやめてオレらといかんか?」
ニヤリと意地悪く笑う翼宿に柳宿はきょとんとする。代わりに誘われた浅葱は困ったように眉を下げ左右に頭を振った。
「折角の申し出ですけど、私は柳宿と一緒に行くと決めちゃいましたから。それに柳宿がキレイなのは本当ですから、絡まれるのは仕方ないと思いますよ?」
「けどいちいち絡まれちゃ先進めねぇーのも確かだぜ」
翼宿と浅葱のやりとりを聞いていた鬼宿が加わる。
それに柳宿は数秒思案し短く嘆息した。
「分かったわよ。女に見えなきゃいいんでしょ。ちょっと待ってなさいっ」
そう言うや柳宿は荷物袋から護身用にと持ち歩いている短剣を取り出すと、おもむろに項で一纏めにしていった髪を掴み何のためらいもなく切ってしまった。
「あ〜〜〜っ」
「うおっ!もったいねーっ」
「綺麗な長い髪が…」
「いいの!?もう女装出来ないよ?」
美朱と鬼宿の大袈裟すぎる驚きと、浅葱の名残り惜しそうなセリフに柳宿はいたって平素で笑う。
「いいのよ。言ったじゃない、もう女装は潮時ってさ!それにこっちの方が浅葱を男どもから護れるしね」
「あ、あの……っ」
彼は切った長い三つ編みを持ちながら、浅葱にウィンクを投げる。
それに浅葱は僅かに頬を染め視線を反らす。可愛らしい反応に柳宿はクスリと喉を鳴らした。
妙な気恥かしさに浅葱はますます顔を赤らめ、それを隠すように飲み物を持ち上げ飲む素振りをする。
どうしてこんな時にそんな話をするのだろう。
そろり、と仲間を見やるとみんな生温かい視線を自分たちに向けていた。
……ああ、穴があったら入りたい。地の底まで深い穴に。
居心地悪くしている浅葱を見て笑っていた柳宿は、笑いをおさめると表情を少しだけ改め「でも真面目な話」と続けた。
「これから青龍七星士と戦ってかなきゃいけないっていうのに、なよなよしてらんないじゃない」
「青龍七星士か。そうだよな、ヘタすっとぶつかるかもしんねーんだよな」
そうだった、と思いだし鬼宿はチラリと隣の美朱を見た。
親友と完全に敵対するかもしれないのだ、美朱の反応が気になった。……が、彼女は特に何の反応もしていなかった。
かわりにテーブルに並べられている料理を片っ端から片付けつつ、仲間の話を聞いている。
鬼宿は美朱の様子に呆気にとられ、心配しているのが自分だけだと思い至ると肩を僅かに落とした。
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