紅き蝶 白き魂2
□37話
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「た……鬼宿…。生きてる?」
「お兄ちゃん大丈夫…?」
「へ、へーき。へーき!!」
辛うじて抱きかかえていた子供に怪我はなかったようだが、鬼宿の背中には馬の蹄の跡がくっきりとついている。
相当痛かったはずだが、彼はやせ我慢し無理やり笑みを作り上げ子供に返事をした。
「っと、それよりぼーずの馬は―――……」
「あらくすぐったいわよ。君人懐っこいわね」
辺りを見回し少年の馬を探していた鬼宿は、聞こえてきた声にヒクリと頬を動かしぎこちなく首を回す。
そこには自分を踏みつけどこかに去っていったと思われた馬が、浅葱に鼻先を押し付け甘えていた。
「でもダメよ?君の主人はあの子なんだから彼の言うことを聞きなさい」
「ヒヒーーーンッ!」
浅葱に説教され馬は不満げに一鳴きする。
浅葱は困ったように眉を下げ、馬を優しく撫でながら鬼宿と彼に抱えられている少年に視線を向けた。
「この子、君の乗り方が居心地悪かったようなの。いっぱい練習してこの子に認めてもらえるようになりなさい」
「………は、はい」
「………お前、オレ達より馬の話しかよ」
浅葱の言葉にがっくりと肩を落とす。
鬼宿に何を言われたのか分からず、浅葱は小首を傾げてみせた。
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少年と馬を彼の家族に送り届けた浅葱たちは、彼の家族の好意で一晩泊めてもらえる事になった。
これからどうやって北甲国を調べていこうか困っていただけに、ここで少しでも情報を得られれば幸いだ。
そう思いながら親子の後を追い移動民族なのかテント型の住居に案内され、さらには夕食もごちそうになった。
「おいしー!これってヨーグルトに似てるよ」
「こっちは羊の肉よ。本当に向こうと同じ遊牧民族のようね」
肉を咀嚼しながら浅葱も物珍しげに並べられた料理を見回す。
見慣れない物が多いが、一口食べてみると食べた事がある味に似ている物がけっこうあった。
今食べている羊の肉を焼いたものもそうだ。
ちらりと見れば隣で同じものを食べている柳宿は恐る恐るといった様子で口に入れている。
紅南国では見たことのない食事にみんな戸惑いながら食事にあずかっていた。
「おっもう日暮れてきよったで!」
「標高の高い所ですから」
翼宿の驚いた声に浅葱は微笑ましく答えると、「夜は冷えますよ」とさらに続けた。
そんな事を言っていると、少年の母親がここの長老と数人の男たちを連れてテントの中に入ってきた。
眉毛と口ひげ、顎ひげが長く一瞬目と口を探してしまった。
……それにしても、これで目が見えているのだろうか。
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