紅き蝶 白き魂2

□44話
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玄武の形代と聞き浅葱の肩が震えた。

脳裏によみがえるのは痛みに薄れゆく意識と崩れさる己の身体。まだ巫女と一緒にいたいという純粋な思慕。

身体が崩れ死んでしまった彼女があのあと玄武を召喚出来たのか、巫女たちがどうなったのか知る術はなかった。

しかしこうして神座宝のもとにいるのをみて、少しだけ救われた気がした。


「この結界は神座宝を守ろうとする形代の想いです。
玄武七星士である我らが通れない以上「玄武の巫女」でもないあなたも通る事はできないでしょう。おそらく七星士でも無理かと思われます。
出来るとすればあとは同じ形代である人間だけ」

「え?でも私は朱雀ですよ?」


「守護は関係ないかと思います。形代は太一君が生み出した存在ですから」


朱雀の守護があるのに自分しか解けないと言われ少々戸惑う。

これで通る事ができなかったらどうすればいいのだろうか。

隣を見れば期待を込めた眼差しで見つめてくる美朱がいるし、玄武の二人も確証はないようで困ったような笑みを浮かべている始末。

後ろでは成り行きを見ている七星士と四面楚歌状態に泣きそうだ。

恐る恐る宙に漂う石に手を伸ばす。石はすんなりと彼女の手に落ちてきた。

親指の爪ほどの小さな石だ。そして自分の鎖骨にある石とそっくりだった。

色が赤ではなく黒であるという点で違うだけ。

おそらくこの石はあの少女の身体についていたものなのだ。自分と同じように。


「……お疲れ様。もう寝てもいいのよ」


指の腹で優しく撫でる。石は僅かに温もりを帯び、浅葱の手から離れてしまった。

やっぱりダメだったのか。そう思っていた次の瞬間、石に向かって自分の身体から光が走り、光のモヤは人の形を造った。

小さい身体に黒い髪。厚手の温かな上着をひらめかせ光の少女は走る。

神座宝が祀られている台座へと。


「え?ええ!?」

「そんな…っ。まさか」

「あれは……っ!?」


玄武の二人が驚愕の声をあげ、美朱は驚きの声をだす。浅葱は声を失い、ただ少女の後ろ姿を目で追いかけた。

黒い光の壁はなくなっていることに誰一人気がつかない。


『巫女っ!!』


涙交じりではあったが少女特有の高い声が空間を響かせる。様々な感情がその一言に乗せられていた。

無我夢中で少女が両腕を伸ばす。

手は空を切るかと思われたそれは、突如現れた二人の人物によって支えられた。


「……巫女っ!?」

「う、女宿っ!?」


玄武の二人が驚愕の声を上げ、少女を支えた二人の名を呼ぶ。


「巫女って……。え?えェェ!?もしかして玄武の巫女ぉ!?」


うそぉ!?とムンクのような仕草をする美朱を尻目に、浅葱の視線は少女を優しく支えた二人に注がれていた。

黒髪に黒い目の愛らしい少女と、茶系の髪に青い瞳の美丈夫は形代の少女を見下ろし柔らかな笑みを浮かべている。

青年がくしゃりと形代の少女の頭を撫で、黒髪の少女が形代の少女の頬に優しく触れる。

正装なのか二人とも豪華な装飾を身につけ、素人でも分かる上質な服を着ていた。

記憶の中の玄武の巫女は着物に袴姿の女学生風だった。身につけるものが違うとこんなにも違って見えるものなのだろうか。

女学生の彼女が少し儚げな印象を持っていたが、目の前の少女は凛としている。


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