紅き蝶 白き魂2

□43話
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「ちょっと美朱退いて!!翼宿、浅葱を私に渡しなさい!!」

「なに言うとんねん。自分病み上がり忘れとるで」

「軫宿に治してもらってこのとおり元気よ!それより浅葱を渡しなさい!」

「お、おい!そんな急に動いちゃ……って言わん事ない。柳宿大丈夫か?」

「……え、ええ」


抱きついていた美朱を退け起き上ったが、軽い眩暈を起こしかけそのまま項垂れる。

身体のだるさに加え、眩暈や頭痛もする。相当血を流せすぎたらしい。

額に手を当て瞳を閉じる。そのまま眩暈をやり過ごすと一度深く呼吸をした。


「無理に動かない方がいいのだ。あれだけの怪我をしていたのだ。少し休んだ方がいいのだ」

「そうですね。浅葱さんも目を覚ましませんし、先に進んでもまた敵が現れた時思うように動けませんから」


井宿と張宿の提案に不承不承頷く。

確かに死んでもおかしくない怪我だったのだし、少し動いただけでこの有り様では仲間に迷惑をかけてしまう。

それに浅葱を護ることも難しいだろう。

護ると誓ったからには護り通してみせる。そう決めた。今は体力の回復をまったほうがいい。


「そうね、そうするわ。
いい?翼宿。少しの間だけおおめに見てあげるから浅葱が風邪をひかないようにしっかり温めてなさいよっ」

「わかっとるわっ」


言われずともと口を尖らせつつ、どこか勝ち誇ったような顔の翼宿に柳宿の眉尻が跳ねあがる。

やっぱり奪い返したい。

こちらが睨むもののそんなもの怖くないとばかりに翼宿は余裕の表情で鉄扇から火を出し、いつかのように浅葱の身体を温め始めた。

小柄な浅葱を男である翼宿が包みこむのは容易で、すっぽりと彼女の身体は彼の腕に納まってしまっている。

ああ、本当に奪え返したいと柳宿は本気で思った。









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「う…ん…。あれ?たす、き…?」

「お、おう!具合どうや?」

「大丈夫、です……。そうだ!柳宿……っ!翼宿、柳宿は無事なんですか!?」


鉄扇からの温かい炎と翼宿から伝わる温もりにまどろんでいたい衝動を抑え、浅葱は近いほどに顔を翼宿に近づける。

翼宿はぎょっとし後ろに仰け反るが、そんなことなどお構いなしに彼女は眉尻を下げじっと彼の顔を覗きこんでくる。

内心嬉しいが前方で威圧的な気配を漂わせている柳宿を見るや、翼宿は急ぎ彼女から身体を離しぎこちない笑みを浮かべた。


「柳宿なら後ろで寝転がっておるで。傷は軫宿が治したさかい心配ない」

「本当、ですか…?」

「ホントよ!そんなに心配なら自分の目で確認しなさいな!」

「……っ」


翼宿と浅葱の会話に彼女の耳に馴染んだ声が割り込む。

浅葱は恐る恐る後ろを振り向き、目を思いっきり見開くと次の瞬間くしゃりと泣きそうに顔を歪め駆けだした。

その後ろ姿を翼宿は腕に残る浅葱の温もりを感じながら、切なそうに目を細めて見送った。



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