紅き蝶 白き魂2

□41話
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死んだら天に召されるとか言うが、天がこんなに薄暗く不気味だったとは知らなかった。

しかも天国のクセに辛気臭いことこの上ない。

定番の三途の川も、花畑も、対岸にいる故人もなにもない。

ただ月明かりと不気味な静けさが木製の――おそらく――街並みに広がっていた。


「さぁーて、どうしたものかしら」


まずは出口を探そう。そのためには状況把握が先だ。

何か目印のような物でも見つかればと周囲を見回す。

しかしどの建物も全く知らないものばかりなうえ、どこを見ても同じ造りに見え軽く混乱してしまった。

とりあえず目の前に広がる通りを歩いてみる。


「あらやだ。影もないし足音もしないわ。……って、当り前か。死んでるものね」


自嘲しながらほどほど歩いて行く。

途中、十字路と遭遇すること幾度。視線の先はずっと同じ光景ばかりで、正直辟易してきた。

気まぐれに角を曲がったりもしてみたが、どの道も同じに見えてしまう。

もしかして始めの所に戻ってしまっているのだろうか。


「もう!行けばいくほど混乱する通りねっ!」


均等に近い区切りで十字路が多いことを考えれば、この街は碁盤のような網目の道ばかりの様な気がする。

柳宿は眉宇をよせ手短な角を右に曲がる。

その時だった。さっきまでの静けさを壊す怒鳴り声と、刃物がぶつかり合う硬質な音が静寂の闇を切りさいたのは。

急ぎ音がした場所に走る。もしかしたら、情報を得られる絶好のチャンスなのだ。

さほど時間をかけずに辿りつけたが、そこで見た光景に柳宿は目を大きく見開き口元を覆うと勢いよく顔を背けた。

鉄臭い臭い。知りたくもないのに、己の嗅覚はこの惨状を知らしめてくれることに舌打ちする。


(なによ、これ!?殺しの現場じゃないの!ここって天国じゃなかったの!?)


俯いたままあまりのことに混乱し動けずにいると、数人の男たちが何かを報告しあっているのが耳に入ってきた。

逃げ出そうにも足が縫いとめられているようで動けない。

話声が段々と近づいていることに気が付き、柳宿は焦るが動揺で自由に身体が動かせないために声は近付くばかりだった。


(ちょっとぉ!!なんで動かないのよ!!ユーレイならドロンと消えなさいよ!!)


「あーあ、僕って今日はついてないなぁ。せっかくの休みがこのせいで潰れちゃったしー」

「幹部の人間ならば、内部の処理は当然の事だろう」

「だからってこんな夜更けにただっ広い京を走り回るのは疲れるじゃない」


声音から歳若い男が二人のようだ。

こうなったら度胸で事態を乗り切るしかない。

柳宿は出来るだけ奥の惨劇現場を見ないようにしながら、顔を持ち上げた。


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