紅き蝶 白き魂2

□39話
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山を揺るがすほどの轟きが静寂の空の下響く。

柳宿は力尽きたようにそのまま崩れ落ちてしまった。それを慌てて浅葱が抱き起こす。

出血が止まらない。いつも綺麗な顔が今は蒼白で唇も蒼白くなっている。

浅葱は自分の怪我など構わず柳宿の胸元から流れでる血を止めようと服の裾を破り彼の傷口にあてがう。

それでも血は止まらない。


(どうしよう…どうしよう…っ)





「お願い柳宿死なないで…っ…!」


(血が止まらないっ!!早く、早くみんな来て!!柳宿が、柳宿が死んじゃう……っ!!)


「軫宿…軫宿ぇ…お願い早く来てよぉ…っ」


(どうして私は美朱だけの身代わりなの…っ!!柳宿の身代わりだったなら良かったのに!!)


どんなに強く願っても柳宿の傷は移せない。どんなに叫んでも仲間に声は届かない。


「泣かないの…。あたしは…死なない…わよ。…あんたを…一人…になんてさせない…わ…」

「柳宿喋っちゃダメ!!」

「ひとの…頭の上で…ズグズグないて…いるんだもの。…喋りたくもなる、わよ…」


そういうと柳宿はふわりと微笑んだ。安心させるような慈愛の笑み。

そして腕を持ち上げ彼女の頬を震える手で撫でる。


「大丈夫…よ…。あたしを、だれ…だと思って…いる、の…。柳宿さま…よ?
こんなことじゃ…簡単…には、くたばらない…わ…」

「もういい…っ!!もういいです!!喋らないで!!」


激しく頭を振りこれ以上柳宿の言葉を聞きたくないと拒む。

柳宿は悲しそうに表情を歪ませ、彼女の顔を引き寄せる。そしてそのまま口付けた。

言葉じゃダメなら行動で安心させようとした。触れた唇は柔らかく自身の冷えた唇を温めてくれるようだった。

霞む視界にぐしゃぐしゃに泣きはらしている浅葱が飛び込んでくる。

こんな顔をさせたくて口付けたわけじゃないのに…そう思った瞬間、浅葱を中心に朱金の光が溢れ瞬く間に柳宿も取り込み膨れ上がる。






「柳宿!?浅葱!?」

「いったいどうなってんだよ!?」


一枚紗で遮られたような美朱と鬼宿の驚愕した叫びを柳宿と浅葱は聞いた気がしたが、2人はそれっきり意識を手放してしまった。







純白の雪と対比するかのような鮮血が白一色の光景に彩りを与える。

それに加え新たに朱金の光がまぶしく輝き辺りを輝かせた。





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