紅き蝶 白き魂2

□37話
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「浅葱平気?」

「はい。なんとか…」


女誠国から脱出し北甲国に向けて草や木が少しだけ生えているごつごつした岩肌を登っていく。

海から入国しようとしていたはずが、青龍七星士の妨害にあい正規のルートから外れてしまったためだ。

山歩きに向いていない女官服では先頭をいく美朱と鬼宿たちに追いつくのがやっとで、浅葱は人知れず大きな溜息を一つ落とした。

自分と張宿、柳宿以外はいつもの服装なのが少しだけ羨ましい。


「わぁぁあ!浅葱すごいよっ!早く早く!!」


柳宿の手を借りながら皆のあとをついて行っていると、美朱の歓声と呼び声がかかった。


「そう言われても……」

「美朱ぁ!こっちはあんたと違って動きにくい服装なのよォ。そう急かさないでよねぇ。
まったくもう……っ!ほら手ぇ貸しなさい」

「あ、ありがとうございます」


一際大きい岩の上に立った柳宿に腕を引かれ、なんとか頂上に上がった。


「すごい…っ」

「でしょでしょ!!」


はしゃぐ美朱の言葉など耳に入らず、浅葱は眼下に広がる広大な大草原を感動と共に見つめる。

日本ではまずお目にかかれない大自然に、知らず胸が高鳴った。


(すごいわ!まるでモンゴルね)


大草原には羊が放牧されており、その先には山がそびえている。

テレビでしか見たことのなかった光景を見渡し、隅々まで観察するように眺めた。

羊以外動物が見当たらない。これを放牧している人間も見当たらないからか随分と長閑な光景に見えた。


「……くしゅんっ!」

「あら大丈夫?薄着だし水につかってずぶ濡れ状態だものねぇ。
翼宿、鉄扇で火たいてよぉ!」

「お前に言われんでもやったるわっ!浅葱こっち来ぃ」


小さくくしゃみをしたのを聞き逃さず、柳宿は翼宿の鉄扇を焚火代わりにしようと声をかけた。

翼宿はむくれながらも小さな火をだし、震えている浅葱を温めてやった。

それにちゃっかり柳宿も混ざっていたりする。

なんだかんだ言いつつも翼宿は、彼女たちが温まるまでそのまま火を出していた。


「北甲国は確か紅南国の三倍の広さなのだ」

「三倍ィ!?それで神座宝がどこに奉納されてるか、どーやってつきとめつんだぁ!?」


井宿の言葉に鬼宿が声を上げた。

この大平原を見ただけでも眩暈が来るくらいだというのに、紅南国の三倍もある国土からたった一つの宝を探し出すのは骨が折れる。

そんなとき遠くから一頭の馬が全速力で向かってくるのが見えた。

馬上には子供が馬の鬣(たてがみ)にしがみ付き、泣き叫んでいる。


「やべぇ!振り落とされるぞ!」


慌てて鬼宿が駆けより、間一髪で落ちそうになっていた子供を抱きかかえた。

そのまま軽やかに着地を決め、泣き叫ぶ子供を宥めようと声をかけようとした瞬間、あろうことか馬が彼を踏みつけてしまった。


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