紅き蝶 白き魂2

□36話
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「くっそっ。追え!!」


主の命で兵たちも追うように河に飛び込む。

一足先に浅瀬に上がった美朱達は、張宿の指示に従い前方の陸地に向かって走り出した。


「計算が合ってればそろそろ起こるはずです!」

「何がや!?これやったら追いつかれてしまうがな!」

「……心配いりません。もう追いつかれませんよ」

「なんやて?」


女じゃなかったら戦えたと愚痴をこぼす翼宿の腕の中から、浅葱は波の動きを見つめ目を細めた。

自分達が見ていると浅瀬が徐々に隠れ、両脇から一斉に水が押し寄せてきた。

濁流となって流れてくる水に追手が次々と呑み込まれていく。

驚愕している仲間たちに張宿は月と太陽の満ち欠けと、それに関連する潮の流れを説明した。

あの浅瀬は干潮で出来た道で、時間が過ぎれば元の河に戻るのだと言う。

今日が大潮の日だったのは自分たちにとって幸運だった。


「でかした張宿!!」


事細かに説明する張宿の頭を翼宿が強めに叩く。

その瞬間、彼の足に浮き出ていた字が消えぽーっとした少年になってしまった。


「浅葱平気?立てるかしら」

「はい…なんとか。すぐそこが北甲国なんですね」

「ええ。何だかんだでやっとって感じね…」


感動に耽っている美朱のような感情はない。

ただやっと辿り着く事に対しての安堵に浅葱は大きく息を吐きだした。



(……北の大地、北甲国。玄武の守護する国……)


どうしてだろう。なぜか泣きそうになる。

悲しいのか嬉しいのか……懐かしいのか。




浅葱は瞳を閉じ心を鎮めると美朱の背中に向かって歩き出した。






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