紅き蝶 白き魂2

□54 話
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鬼宿の先導で迷路のような道をひた走る。もうどこをどう通ったのか分からなくなってしまった。

何度角を曲がったのか数えるのも億劫になってきたころ、見つけたのは壁に彫られてある仏像に捕まった美朱だった。


「石仏が動くの初めて見たわ……」

「うお!食い込んでいるやんけ!――烈火神焔!」


翼宿のだした炎が、美朱を掴んでいた仏像の腕を見事に燃やす。

重力の法則にしたがい美朱の体は落下したが、そこはさすがと言うべきか、仲間たちをすり抜け鬼宿が見事に受け止めてみせた。


「鬼宿、やるわねぇ」

「そうですね。でも私たちが目に入っていないのか、そこでキスはやめてほしいです」


呆れた声音の浅葱の言う通り、受け止めたあと鬼宿は自分の不安や弱音と吐露すると顔を背ける美朱に唇をかさねていた。

世界が違う、神は願いを叶えてくれない。ならばお互い傷が浅いうちに別れてしまえばいい。

浅葱の思った通りだった。そしてそれを振り払うかのように、日が沈んでしまった小窓からの空を見ると、美朱をきつく抱きしめたのだ。

これはお子様には目の毒と翼宿が張宿の目の上をビンタよろしく勢いで塞いだことを美朱と鬼宿は知らない。


「はいはい。感動の再会はここまで。それで、なんでアンタ一人で来たのよ。みんな心配したのよ」

「……」


パンパンと手を軽く叩き、場を仕切る柳宿にそれぞれが頷く。

その中には浅葱も含まれていた。彼女はわずかに眉を下げ、心配だったと雰囲気で伝えてくる。

美朱は八つ当たりをした手前、目を合わせることが後ろめたかったが、それでも逃げることはできないとキュッと口を引き締めやや間を置きパクパクと動かし始めた。


「やっぱり声でないのね」

「そうみたいやな。でも何か必死に訴えとるで」


うんうんと頷くと美朱は必死に身振り手振りで先を指さす。

この先に何かあると訴えているのは分かるが、何を……と首を傾げる翼宿たちをしり目に、鬼宿と浅葱はハッと顔を上げた。


「唯か!」

「きっとそうです。唯はさっきまで美朱たちといたと言っていたもの!」


唯という名前がでたことに訴えが通じたことに美朱の表情が明るくなる。

唯という名は知っていた仲間たちも驚きと共に、顔を険しくした。

唯――青龍の巫女。敵の巫女だからだ。

はやる気持ちを抑えきれないのか、美朱は立ち上がるとぐいぐいと鬼宿の腕御引っ張り先を促す。

唯のもとに行こうとしているのは分かるが、なぜそこまでして追いかけたいのか理由が分からない面々は怪訝な表情で彼女を見ていた。


「そういえばあの子、婁宿さんとも一緒に居たと言っていたわ。
でも今は美朱一人。ということは、婁宿さんは唯と一緒に居るということになる」

「婁宿って、確か白虎七星士の一人よね。それに神座宝を持ってるって言っていたはず」

「……」


浅葱と柳宿の呟きに美朱は躊躇いがちに頷いた。

その間の意味は分からないが、事態は急を要するものだと分かる。

もし神座宝が敵の手に渡ってしまえば、二つ揃ってしまう。そうなればもう手立てはないに等しい。

浅葱たちは顔色を変え、美朱が示す方角に向かって走り出した。

その危惧は既に起こっていることや、偶然の邂逅で唯の心が固まってしまっているとは誰も知らずに。





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