紅き蝶 白き魂2

□53話
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長い廊下を走る。鬼宿と他の仲間たちから随分と離れてしまった。

それでも浅葱の心はわずかに軽く、冷静な目で美朱たちを探すことが出来る。

受け入れてもらえることがこれほど心を軽くするとは思わなかった。

チラリと隣を走る柳宿を見れば、視線に気づいたのか微笑み返してくれた。


「バカ弟子が!どこまで行きやがったんだ」

「角を曲がらなきゃ出会ってもいいはずだしねぇ」

「ってことは、もしかしてすれ違ってるかもってこと?」


入り組んだ廊下を走り抜けつつ、仲間たちを探しているが誰一人として合流しないのは厄介かもしれない。

寺院には魔物が住み着いているという噂があるそうだし、その魔物と遭遇してしまったら無傷ではすまされない。

それに青龍七星士たちもいるのだ、迂闊な行動して出会ってしまったら思うと怖い。

その時だった。右角から奇妙な声と、妙に切羽詰まっている鬼宿の声が聞こえたのは。


「もしかして襲われてるの!?」

「魔物かしら?」

「……浅葱ちゃん、意外に冷静だね」


え?と首を傾げる浅葱に、柳宿たちは苦笑いで返した。

先ほどまでの動揺っぷりと、いまの冷静さのギャップに笑うしかないのだ。

そうこうしているうちに、鬼宿の所まで追いついたが、ひしめき合う僧侶の前に頬が引きつる。

「お布施を」と迫る僧侶は姿は僧だったが、頭部や手が人とはまるで違うものになっていた。

一つ目で後頭部にも同じ目が、口は大きく裂け鋭い牙が生えていた。


「お布施って、これお坊さん?」

「こりゃ、妖怪に肉体をの取られているな」

「え……えぇ?」


初めてみた妖怪に思わず大声を上げてしまった。

それを聞いた妖怪が一斉にこちらを振り向く。その不気味さにヒッとあがった悲鳴を何とかのみこんだ。

これ以上、相手を刺激することは得策ではなさそうだ。

どうすれば、鬼宿を助けられるかと思案している脇から、奎宿が懐から何かを宙に投げたのが見えた。

それは宙で広がり、明かりを反射させチャリンチャリンと硬質な音を立てながら落ちていく。


「お金?」

「お布施ね。確かにお金だわ」

「鬼宿!今のうちにいくぞ!」


お金に目がいっている今の内と鬼宿に言うが、鬼宿は守銭奴のクセが働きせっせかと拾っていた。

さすがというか、お金と見るや拾わずにはいられないらしい。


「鬼宿何やってんの!さっさと行くわよ!」

「いでっ」


ゴンと鈍い音と共に鬼宿が地に沈む。沈めた当の人物である柳宿は、そのまま鬼宿の襟首をつかみズルズルと引きずり走り出した。


「ナイスです。柳宿」

「まったく、この守銭奴根性何とかなんないのかしら!」

「鬼宿であるかぎりムリじゃないでしょうか」


ガンゴンと鈍い音を出しながら走る朱雀の二人と一人に、奎宿と昴宿は呆気にとられつつ後ろを走る。

昔の自分たちを見ているようだとは思っていたが、関係は随分と違っていた。

というか、仲間だよね?と問いかけたくなる行動だった。そのことはそっと心の奥にしまっておくほうがいいのかもしれない。



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