紅き蝶 白き魂2
□52話
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空はもうじき夕闇に染まる。風もどことなく冷たく感じ、浅葱はブルリと体を震わせる。
ここはあの時美朱が話していた寺院の塔だ。比較的低い塔だが、地上から距離があるため風が強い。
はためく服の合わせをきつく握りしめ、浅葱はきつく唇をかみしめ言いようのない感情をおさえこむ。
そうしなければ、自分の不甲斐なさに叫びたくなるからだった。
※
あのあと、柳宿たちを出迎えるために向かったが、そこで美朱が鬼宿に「寺院の塔で待っている」と言い残し出て行ったことがわかった。
しかし、奎宿がいうには、そこは魔物の巣窟となり果て出入り禁止になっているとのことだった。
さらにシーファンが、あの伝説を美朱に教えたことも分かり、彼女は狼狽していた。
彼女はただの世間話程度の認識で話したようだったが、鬼宿のことで悩んでいた美朱はその話にすがった。
その結果がこの騒動だ。
あのとき、切ない目で塔を見ていたのに、自分は注意するだけで真剣に取り合ってなかったのかもしれない。
彼女なら、きっと大丈夫だと思っていたのだ。そんなことに頼らなくても、きっと自分でなんとかすると信じていた。
ここまで追い詰められていたなんて思いもしなかった。
(いいえ、そうじゃない。あのとき、自分は私と違うと叫んでいた。涙声で、すべてを拒絶するみたいに。
あのとき、追いかけていればこんなことにならなかった。最終的に追い詰めたのは私……)
顔を色をなくす恋人にいち早く気が付いた柳宿が、どうしたのかと心配そうに聞いてきたが彼女は言葉を発することができなかった。
自分の過ちに恐怖した。それが恐ろしかったのだ。
励ましのつもりが、逆に彼女を追い詰め、最悪な方向へと向かわせてしまった。
そんな狼狽している浅葱をしり目に、鬼宿と奎宿が言い争っていた。
美朱の所に行くと言い張る鬼宿に、奎宿はお前は残れと言う。そして自分たちに起こった悲劇を語った。
神獣を呼び出しても、巫女と七星士が結ばれることはない。『絶対に』。
それが掟であり、この世界の理。願っても叶わないならば、今別れた方が双方傷が浅くてすむと。
それが彼の師匠の優しさだった。
そんな奎宿の言葉に、鬼宿は切ない表情で「手遅れなんだよ」と言って美朱のもとに走り去っていってしまった。
※
そこまで思い返し、美朱の残していったリボンを片手に彼女を探す鬼宿の後姿を見つめていた。
塔には美朱はおらず、ここにいたという証しか残されていなかったのだ。
そう言葉をかけたらいいものか、考えあぐねていると不意に体が抱きかかえられ、その横を轟音と共に熱風が吹き抜けていく。
何があったのかと驚く浅葱に、彼女を抱きかかえている柳宿は「このバカ!」という叱りに肩を竦ませた。
「どうしてあんたは猪突猛進なのよ!もう少しで魔物の餌食だったのよ!!」
「ま、魔物ですか……」
熱風が通った先にいるのは黒焦げの鬼宿だ。
もしかして、いままで知らなかっただけで鬼宿は魔物だったのか。
そう思った浅葱に、柳宿は的確にその考えを否定した。
「言っておくけどね、アレは巻き添えよ。ホンモノはアレ」
柳宿の指さす先にあったのはまるっと焦げた黒い塊。
魔物というものを今まで見たことがない浅葱にとって、いまいちぴんと来ない。
ただなんとなく、危なかったのを助けられたのだとはわかった。
「燃えた塊、ということはやったのは翼宿ですか」
「おう!どでかい口開けて浅葱と鬼宿を食おうとしていたさかい!」
「それは、ありがとうございます」
「ねぇ、あたしにお礼はないのかしら?翼宿の炎から守ってあげたのに」
「柳宿もありがとうございます。あ、もう安全のようですから、離してください」
「ダーメ。飛び出していった罰だと思いなさい」
「罰になるんでしょうか、これ」
ぎゅっと抱きしめられ、どうすることもできず浅葱は戸惑い助けを求めるべく翼宿を見る。
しかし翼宿はむくれつつも、助けてくれる気配はなかった。
では誰かと、彼の後に続いてきた仲間を見るが、諦めろとばかりに頭を振るわれ誰も助けてくれず、しかたなく大人しくするしかないと諦めるしかなかった。
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