紅き蝶 白き魂2
□49話
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太陽が中天にさしかかった時間。朝というよりは、昼といったほうが正しい本当の西廊国の街に浅葱たちはいた。
あれから、まぼろしの街から井宿が指し示す美朱と鬼宿の二人がいるだろう方向へ歩き、そこで死んだはずの亢星(あみぼし)と彼とうり二つの角宿(すぼし)が美朱たちと対峙している所に遭遇。
しかもなぜか美朱は下着姿でかなり裸に近い姿だった。……いったいなにがあったのか詳しくは分からないが、なにやら幻でそんな状況になったらしい。
裸になる状況とはいったい……と思わなくもない。どんな幻を見ていたのか激しく気になるところだ。
とりあえず、翼宿の威嚇の炎で角宿とボロボロになり、意識を失っている亢宿が去っていった後に出会った初老の男性の家に来ていた。
なんでも彼は紅南国を旅している時に鬼宿に出会い、その時武術や文字の読み書きなどを鬼宿に教えてくれた人らしい。彼は「師匠(ししょう)」と呼んでいた。
整然と並んだ塀が周囲を取り囲んだ、かなり大きな屋敷が男性の家だそうだ。
砂漠で衰弱していた朱雀七星士たちは、案内された部屋でバタリと死んだように眠りっている。
雑魚寝状態だが誰も気にしなかった。安眠に空間の狭さは無用らしい。
浅葱はというと、あのまぼろし街で休んだためか寝てもすぐに目が覚めてしまった。柳宿も同じ理由で他の仲間たちより元気なようだった。
女なので一室別に割り当てられたのだが、心遣いを無駄にしそうだ。
起きてもなにもすることがないし、かといって他人の屋敷をうろつくことも憚(はばか)り少し考えてしまう。
どうしようと途方に暮れていると、扉が開きそこから見知らぬ女性が入ってきた。
この家の主の奥さんではない。彼女にこの部屋に案内されたからだ。
愛らしい造りの顔にこの国も民族衣装なのか、色彩が豊かな服を着た同じ年頃の女性。
ここの家の娘さんだろうか。じっと見つめていると、「あの……」と不安そうな声で話しかけられた。
「……起きていて大丈夫なんですか?」
「はい、休息は十分とらせてもらいました。ありがとうございます。……あの、なにか私にご用でしたか?」
「き…着替えを置いておこうかと。その服は少し痛んでますし、砂まみれですから」
言われてみれば、今着ている服はかなりくたびれていた。青龍七星士から受けた攻撃で肩は破れ、裾はボロボロ状態だ。
北甲国での一件で、そんなことにまで目を向けている余裕がなかった。髪を触ってみれば少しパサついているし、肌も乾燥気味。女としてこれはいただけない。
再会した美朱を思い浮かべるが、彼女は自分たちより小奇麗だったなと思う。別れていた間に、どこかに世話になっていたのかもしれない。
そのあとに青龍七星士のまぼろしを見せられたと考えれば、納得がいく。
(少しだけずるいわ。……こっちはボロボロなのに。それにこんな姿をずっと柳宿に見られていたと思うといたたまれない……)
好きな人の前では綺麗でありたいというのが乙女心。それなのに今の自分はそれの真逆の姿だ。
この姿で幻滅でもされてやしないかと、心配になる。
「……あの、着替えいりませんでしたか?」
「あ、いいえ。ありがとうございます。……すみません、図々しいお願いですが体を清めたいのでお湯をいただけますか」
「は、はい。わかりました。すぐにお持ちします」
びくびくと震える女性は、そういうと部屋を出て行ってしまった。
ずっと無表情でいたのがいけなかったのか、怯えてしまったらしい。
(好きでこんな表情してるわけじゃないのに……)
むきゅっと自分の頬を掴み、無理やり上に持ち上げてみる。近くにある鏡面を覗き込めば、かなり怖い変顔な自分がいた。
手を離し今度は妹の笑みを見本に、口角を挙げて笑ってみる。が、これは笑っているというのだろうか。
自分に自分を見下されているような、冷笑されているような、そんな笑みだった。
「……いつも私って笑うとこんな顔になるのよね。
なんでこれで柳宿は笑ったところを皆にみせちゃいけないなんていうのかしら」
見下され、冷たく笑われることが嬉しいなど変だ。
もしや彼には自分が知らない性癖でもあるのだろうか。
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