紅き蝶 白き魂2
□48話
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炎天下の中、マントで日差しを遮り人通りの多い道を三人で歩いていく。
通気性がいいのか、程よく風を通してくれ意外に過ごしやすい。
柳宿や翼宿も同じなのか、歩みはゆっくりしているものの、暑さで足が止まるということもないようだった。
「お、これ浅葱に似合うんちゃうか」
「これも似合いそうね」
「……二人とも何しに来たんですか?」
色とりどりの衣装を持ち掲げる翼宿に、同じようにかわいらしい小物を見せる柳宿。
それを茫然と見ていた浅葱は、呆れたように言った。
「冷やかしだけじゃつまらないじゃない。なんかここカワイイの多いしねぇ」
「そうや。紅南国じゃ見かけないモンばっかやし、気分転換にもなるやろ」
「私は見てるだけで十分ですよ」
苦笑しながらも、翼宿が持っていた淡い緑色の衣装を手に取り目の前に広げてみた。
確かに南に位置する紅南国では見かけない衣装だ。中央アジアから中東にかけて見る民族衣装のような造りに、興味いのは確かだ。
柳宿が持っている首飾りも、アジアンチックで日本で普段身に着けていても違和感がないだろう。
造りもしっかりしていて、ちょっとしたオシャレアクセントになりそうな代物で、実に自分の好みのものだ。
しかし、それを買ってもらうわけにもいかない。これから先、また何かあった時にお金は必要になるものだから。
(でも、本当にこれカワイイ)
服も首飾りも冷やかしだけで終わるのはもったいないけれど、ここはグッと堪えなければ。
手にしていた衣装を店に戻し、周りを見渡す。
物価が高いのか安いのか分からないので、どの売り物も同じくらい高価なものに見えた。
「なんや、これくらい買うたるで」
「いえ、服は荷物になってしまうので……」
「ならこれはどうかしら?ほら、あたしとお揃いになるわよ」
シャラと小奇麗な音が響き、柳宿が腕を差し出す。銀色の鎖に赤のガラス玉一つと、透明なガラス玉がそれを挟むように連なり、実にシンプルな腕輪が光る。
確かに柳宿が太一君から授けられた腕輪と似ていた。違いと言えば、柳宿の腕輪ががっちりしていることと、売り物が華奢で実に繊細なものというだけだ。
「お揃いになるのは嬉しいですけど、今はムダにお金を使うことも出来ないじゃないですか。本当に私は見てるだけで十分ですから」
気分転換にもなっているからと遠慮する浅葱に、男二人は顔を見合わせニッと口の端を上げた。
「あんたは少しくらい欲張りなさいよ。遠慮されると悲しいじゃない」
「そやそや。美朱なら、ここで食べモン催促するくらい図太いで」
「……美朱の図太さを私に求めないでください」
あれは欲求に勝つ自制心をなくすことが多い。特に食欲は他の追随を許さないのは、感心してしまうくらいだ。
「美朱とか関係なくても、少しくらいオシャレはしてもいいじゃないの。
紅南国にいたときから、こういうものあまり持ってなかったしね。
ってことで、おやじこれ買うわ」
「はいよ、どうも」
「え?柳宿!」
「ほな、オレもじゃ」
「翼宿もですか!?」
サクサクと買われた腕輪を戸惑う間に着けられてしまった。ついで、なぜか翼宿からショールのような長い襟巻も巻かれ、慌てて外そうとする。
しかし、二人の手によって阻まれてしまった。
「女の子ならオシャレくらいいいじゃない。それに、あたしからあんたに贈り物ってなかなかなかったしねぇ」
「襟巻なら邪魔にならへんやろ」
惚れた女が自分が選んだものを身に着けていることに満足し、二人の顔から笑みがこぼれる。
贈られた当事者の浅葱は、戸惑い店主に助けを求めるも「嬢ちゃん、やるね」などと感心するセリフを貰い、まったく当てにならなかった。
しかもホクホク顔で、さらに助けを求めることもできない。
「せっかくの贈りもんだ。素直に受け取るほうがいい」
「そうですが……」
店主の満面の笑みに――おそらく品物が売れたからだ――後押しされ、浅葱は眉をハの字に下げ戸惑うように腕輪をいじる。
しっくりと手に馴染む造りの腕輪と、風を通し意外に涼しい襟巻を撫で、しょうがないと諦めることにした。返すにしても買われてしまったものでは、買ってくれた二人に悪い。
浅葱は襟巻を口元まで上げると、囁くように「ありがとうございます」とお礼を述べた。
目元が緩み、ふわりとした表情になった浅葱に、柳宿は歓声をあげ抱き付き、翼宿は目元を赤らめ、どもる声で返事をした。
柳宿の行動には耐性がついているが、翼宿のような態度にはあまりあったことのない浅葱は小首を傾げるばかりだった。